第24話 どうして① ※ 愛莉視点


 え、どうして……?

 ばたんと閉まるドアを呆然と見つめて、上げかけた手を下げる。

 

 智樹がずっと私を好きだったのは知っていた。幼馴染だったから、それこそ物心ついた頃から。

 私も幼稚園くらいまでは智樹が大好きで、大きくなったら智樹のお嫁さんになる。なんて言っては大人たちに温かく笑われていたけれど……


 智樹は、なんていうか普通の男の子だった。

 小学生を数年過ごせば、クラスで一番カッコいいのが誰かなんて分かってしまう。

 私自身が誰より可愛いって事も。

 

 だから小学校から恋人が切れた事がない。

 そうなるともう智樹に構う時間も無かった。

 家が近いから時々顔を合わすけれど、そんな時は大体彼氏と一緒だったし、智樹は気まずそうに目を逸らすだけで会話も無かった。


 智樹もたまに誰かから告白されたりして、その度に断っているという噂は聞いた事があって。

 多分私の事がまだ好きなんだろうなあ、なんて思っては少しばかり嬉しくはあったのだけど……やっぱりそれだけで。


 そんな関係が変わったのは、高校卒業後の進路がきっかけだった。

 私は上京したかった。

 ずっと田舎しか知らないなんて、勿体ないと思ってたから。

 だけど親は私が可愛くて仕方がない人たちで、上京するなら進路は大学じゃないと認めないと言い張ったのだ。


 そしてこんな時に頼りになるのは智樹だった。

 私は智樹に頼んで必死に勉強をし、二人で東京の大学を受験した。

 結果──私だけ落ちた……


 智樹は東京の大学へ、私は一年浪人。

 智樹は進学に躊躇したようだったけど、ご両親が喜んだ事もあり、一人東京へ旅立っていった。


 今思えば智樹が私に熱心に勉強を促していたのは、私の学力が不足していると分かっていたから。

 私は東京には行きたかったけど、勉強がしたい訳じゃ無かったし、やる気は起きなかった。このままでは結果は見込めない。つまり勉強を続ける事に意味なんてないのだ。


 そう悟った私は涙ながらに両親に訴えた。


 だって私の一生が掛かってる。どうしても都会にいってみたい。都会がいい。

 そして、やはり私に甘い両親は、折れてくれた。


 一年間勉強する振りをして遊んで、大学受験と併願して専門学校を受験した。

 大学は落ちてしまったけれど、将来を考えるなら好きな事をやりたいし。それなら専門的な事を学んだ方が近道だ。パパもママも頷いてくれたのだから、間違っていない筈でしょう?


 そうして上機嫌で都会に行った私は新しい環境が楽しくて楽しくて、智樹の事なんて忘れてたけど。

 両親が出した上京の条件に入ってたのだ。智樹とたまに会う事が……うちの両親はしっかり者の智樹を信頼しているから。


 そうして約一年ぶりに会った智樹は、少し素敵になっていた。

(都会に来て垢抜けたみたい……)

 けれどまだ私を好きなようで、そんな様子を見たら満足してしまう。少し揶揄うだけで赤くなる智樹は可愛いとは思うけれど、私の彼氏って程では無いかな。


 適当にその場を済ませてさっさと退散した。

 そうやってたまに会ってを繰り返した、更に一年後……智樹が彼女が出来たと言い出したのだ。


 私は固まった。

 すっかり大人っぽくなった幼馴染は、私のお気に入りの一人だったのに。

 何より何年も私を好きだった人が急にそっぽを向いてしまい、裏切られた気持ちになった。


(何よ、急に……)


 私が誰と付き合おうと、全く相手にしなかろうと、たまに構うだけで満足して、ずっと尻尾を振って好意を示してたくせに……


 だから、気付けば私は口にしていた。

「大事な幼馴染の彼女、会ってみたいな」

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