第146話 海賊式処刑
翌朝、目が覚めると、真栄田さんが驚いていた。
「お前、よく寝れるな。良い根性してるよ」
しばらくして、中国兵が来て、私達を甲板に出した。真栄田さんは銃でひざまずかされ、私は後ろ手に縛られた。そして、左舷の甲板から横に長さ10m位の木の板が一本突き出された。私はその板を先まで行くように、銃を向けられた。
海賊の処刑スタイルだ。周囲の中国兵が興味津々と甲板に群がって面白そうに見ている。
私は幅30cm位のその板の先へ進んだ。海風が意外に強く体のバランスを取るのが大変だった。転べば、海へまっ逆さまだ。手を縛られてるから泳げない。溺れるのは確実だ。中国兵がワーワー囃し立てた。私が歩みを止めると、中国兵が少しずらして発砲し威嚇する。私は仕方なく先へ進んだ。段々板のきしみもあり、板が揺れ出した。死ぬことに恐怖はないけど、やりたいことが出来なかったと後悔はある。
そろそろ限界だな、と思った時、遠くから拡声器の声が聞こえた。
「こちらは海上自衛隊、巡視船であるー。ここは日本領海でありー、海上封鎖中であるー。貨物船に告ぐー。停船せよー。抵抗すればー、攻撃するー」
貨物船の右後方から、巡視船が近付いてきていた。
中国兵が急に騒ぎだし始め、甲板上に備え付けてある機関銃を巡視船に乱射した。巡視船はびくともせず、再度同じことを拡声器で言った。私は板の上で立ち止まっていた。
巡視船が砲撃を始め、貨物船の右後方に着水して、貨物船のブリッジよりも高い水柱が立った。中国兵は他の機関銃からも反撃を始めた。巡視船の砲撃は今度は貨物船の反対側の左前方、私がいる方に着水し、大きな水柱が立った。その風圧で私はバランスを崩し、同時に宙を舞った。足の下には何もなく、かなり下に海面が見えた。スローモーションだった。いろんなことを考えた。サメがいたら嫌だなとか、どの位の深さなのかなとか。でも、死んじゃうというのは漠然と分かっていた。
ふっと現実に戻った。手首が痛かった。見ると、私の右手を真栄田さんが甲板から身を乗りだし必死で掴んでいた。
「俺の手、つかめ」
私はつかんだけど、真栄田さんも落ちそうだった。
「私のことは良いから、手、離して」
「何バカなこと言ってる、しっかり掴まれ」
真栄田さんは片手で私を引き上げ、もう片手で自分を引き上げた。私は甲板に引き上げられて、手首の縄を解かれた。
「ありがとう」
「お互い様だよ。ほらっ、逃げるぞ」
立ち上がった途端、またヒューという音がした。そして次の瞬間、ドーンという音と共に甲板がグラッと揺れ、体を甲板のコンテナに叩きつけられた。真栄田さんも転んだ。
「あいつら、本気で撃ってきやがった」
巡視船の砲撃が貨物船の側面に当たったのだ。貨物船が少し横に傾いた気がした。またヒューという音がして、またドーンという音がし、その後爆発音が続いた。
「エンジン室に直撃した音だな」
ガーというエンジン音が聞こえなくなり、海面の波立ちが小さくなった。貨物船がだんだん減速してきたのが分かった。同時に海面がさっきより近く感じた。
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