第145話 金塊の山
私は途方に暮れた。もう夕方遅いので、今から親戚の家には帰れない。どこかこの辺りで宿を探す必要があるが、無さそうだ。
その時、沖合から1隻の小型船が来た。真栄田さんだった。
「よう、元気?」
「どうしたの?」
たまたま船で通りかかったと言った。なんか嘘っぽかったが、このタイミングで船があるのはとても助かった。私は沖合の輸送船まで届けてほしいと頼んだ。
「良いよ。でも、運賃は子ブタ10匹分だけど」
子ブタ10匹の値段がどのくらいか分からないけど、大宮に帰れれば、バイトできるから金銭的な心配はない。それに今は、輸送船に乗るためにはどうしても船が必要だった。
私は了解し、彼の船に乗った。
船はすぐに出港した。
本当はいい人なんだ。いざって時に来るなんて、なんて気の利く人だろう。
そんなことを思っていると、夕日が目の前に来て、それから段々右手になった。
「どこ向かってるの?輸送船との待ち合わせは、本島の北端だけど」
彼は頭をかきながら、
「ちょっと寄る所があって」
私は呆れ返った。
「ちょっと、そういうの困るんですけどー。本当にもう」
つい大声を出してしまった。
「これ誘拐ですよ。大声出しますよ」
「良いよ」
彼は即答した。確かにこんな所で大声を出しても誰にも聞こえない。
私は護身用のナイフを取り出そうか迷った。
彼は手を合わせて
「もう1回だけ」
と頭を下げて懇願した。頭頂部の髪の薄くなっている所がもろに見えて、断る気力もなくなった。
なんだろう、この世間離れした、人懐っこさというか、憎めなさというか。この人はこうやって今まで生きてきたのだろうか?でもその結果がこの年での、このざまだから、やっぱり生き方間違っている。
でも、頭を下げられると、何となく断れない。それは私がお人好しだから?
ため息を付いて、私は小型船の床に座った。
夕日が水平線に沈みかけの頃、前方に貨物船が見えた。かなりの速さで進んでいた。私達は貨物船の後ろに着くと、真栄田さんが鍵のついたロープを何回か投げ、数度の失敗の後、ロープがデッキの手摺に引っかかった。真栄田さんはそのロープの先を小型船に結びつけると、別のロープの束を肩にかけ、先にロープを登った。それから別のロープの一端をこちらに投げて寄越し、私の体に結べと言った。私は言われた通りにし、真栄田さんが引っ張り上げてくれた。
甲板は誰もおらず、船内への扉から中に入った。時々誰か来る気配がしたので、角に隠れたりして、私達は船倉に向かった。通路を進み、最後の扉を開けた。
目を見張った。金色に輝く金塊が山積みになり、それらは私の背よりも高く積まれていた。真栄田さんが必死になるのが分かる気がした。
「よし、運ぶぞ」
えっ、手で運ぶの?
インゴットを一本持ち上げた。とても重い。10kg位あった。両手でやっと一本持って、息を切らしながら扉まで歩いていくと、中国兵と鉢合わせた。
ゴトンっとインゴットを落とし、私は船倉の反対側に逃げた。真栄田さんも逃げた。すぐに警報器が鳴り、通路の真ん中で私達は挟み撃ちにあい、捕まった。私達は狭い倉庫みたいな部屋に閉じ込められた。
「どうなるのかなあ?」
真栄田さんが私に尋ねた。答えたくもなかったが、私は結果を知っていた。中国のことだから死刑は確実だ。そして今は本部に処置を問合せているのだ。ただ本部は夜だから返信がない。つまり明日の朝が、私達の命のタイムリミットだ。
意外に冷静な自分に驚いた。今まで何度も死にそうな経験をしてきたからか?それとももう生きるのに疲れたから?逆にこの真栄田さんが気の毒に思えた。多分死にたくないだろうなぁ、普通そうだろう。
そのうち、ウトウトと眠ってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます