第144話 親戚の家



「あんたの親戚の家、行こう」


大通りに出てタクシーを拾って、ずっと南下した。糸満市に入ってなんか見覚えがあった。ひめゆりの塔は小さい頃に行ったことがあったので、その付近で降ろしてもらった。


歩いてみると、意外に見覚えのない景色ばかりだったが、ふと過去の思い出と一致する光景に出くわした。そこから記憶を頼りに親戚の家と思われる所まで行った。


「あれっ、千里ちゃん」


急に家の前で水やりをしていたおばあさんに声をかけられた。私の祖母だった。


どうしたの?と聞かれて、母が来ていないか聞いた。来ていないと祖母は言ったが、とにかく中に入ってと、私は中に入った。


真栄田さんが一人ぽつんと外に残された。私は手招きした。こんな田舎で宿を探すのは無理だし、タクシーも来ないからだ。祖母はあの人誰?と聞くので、ちょっと知り合いと答えた。


家の中で、真栄田さんは借りてきた猫のようにおとなしく恐縮しっぱなしだった。私は金塊の話は除いて、大雨の中でトラックに乗せてもらったことを話した。


もう夜遅いから、真栄田さんも泊まっていってもらうことになり、夕食も一緒に食べた。真栄田さんは祖母や祖父の質問に対して、えーとか、まーとか、はっきりしない答えに終始して、おかしかった。


夜、寝る部屋は当然別になり、私が自分の布団を敷いていると、祖母がやってきた。


「あの人と、どういう関係?」


さっき話した通りの、旅の途中で知り合った人と答えると、


「なんか下品そうだし、変なことされてない?千里ちゃんも、もう子供じゃないんだから」


私はぷっと吹き出しおた。


「ないない。あの人にそんな甲斐性も勇気もないよ。全然ダメな人だから」


それなら良いんだけれど、と祖母は部屋を出ていった。



翌朝、真栄田さんはお世話になりましたと、朝早く出ていった。結局、子ブタの話は出なかった。空港での件で帳消しになったのだろう。私も母がいないのなら、大宮に帰ることにした。祖父があちこちに問い合わせて、那覇東京間で運営している船会社の中から、私が沖縄に来た時に乗せてもらった船長を探し出してくれた。3日後に那覇を出向するので、また小舟で来たら、本島北端あたりで拾ってくれる事になった。ここでも祖父が知り合いの漁師に話をつけて、漁船で沖合まで私を運び、そこで輸送船に乗り換えさせてもらうことになった。3日後の朝早くに、祖父母に礼を言い、家を出て、バスを乗り継いで、漁師さんと約束の漁港まで来た。


祖父の知り合いの漁師さんはすぐに見つかったが、漁船が壊れたと言った。


「ごめんね」



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