第143話 輸送機爆破
真栄田さんは、ここで待ってな、というと、歩いて中に入っていった。私はフェンス越しに彼を遠目に見ていたが、やがて彼が見えなくなったので、その辺りにしゃがんだ。
何の戦略もなしに、どうやって軍隊相手に一人で戦うのだろうか?多分、いや確実に負けるだろう。でも、本人は自信満々で、めでたい人だ。
思わず、笑ってしまった。どうやったらあんなに楽観的になれるのだろう?
意外と本人は楽しんでいるのかもしれないと思い、それはそれで羨ましかった。
一方、真栄田さんの作戦は、前回の失敗は作業服のままトラックを運転しようとしたからバレたというもので、中国軍の軍服を着ればバレないというものだった。真栄田さんは金塊の輸送機への積み込み作業を遠くから見渡し、端にいる中国兵に目星をつけた。そっと後ろに近づき、木の棒で殴って気絶させ、物陰でその軍服を奪って着た。銃も手に入れた。そして堂々とトラックに近づいた。中国兵に止められて、中国語でなにか話しかけられたが分からず、撃たれそうになったので、殴って逃げた。輸送機の周りには、いくつか整備車両が停まっており、その影に隠れて、追ってくる中国兵に発砲した。1対数十人の銃撃戦が派手に始まった。
私は銃撃戦の音で、滑走路を見ると、1台の整備車両の影に真栄田さんが隠れて、警備隊と銃撃戦をしているのが見えた。滑走路の中国兵がぞろぞろと持ち場を離れ、銃撃戦に加わっていた。真栄田さんはジリジリと追い詰められつつあった。どう見ても勝ち目はない。
「あのバカ」
今まで銃撃戦を何回か経験しているから恐怖心が薄れていたのかわからないが、私はとっさに真栄田さんを助けるために足が動いた。
ちょっと前まで中国兵が見張りに付き、補給車のタンクにジェット燃料を入れいていたが、今は無人だった。フェンス内に入り、近くに止めてあった燃料補給車に飛び乗った。
キーが付いていたから回し、今までの見よう見まねでギアを入れ、アクセルを踏んだ。そろりと動き出した。
これなら運転できる。
そう確信した。真栄田さん目掛けて進んだが、ふとバックミラーを見ると、火が出ている。私はジェット燃料を入れかけのまま補給車を出してしまったので、タンクから燃料がこぼれて引火したのだった。補給車からホースが路面に垂れ下がり、そこからドクドクと燃料が流れ出て、その少し後を火が追いかけていた。車を止めたらタンクが爆発する。
真栄田さんを向かいに行っている場合じゃない。私は真栄田さんと中国兵の真ん中を突っ切った。両者がポカンと、あの車は何やっているんだ、という感じだった。私は輸送機と中国兵を取り囲むようにグルっと補給車を運転し、その直後に、両者は火に囲まれた。金塊のトラックもその炎の輪の中に含まれていた。中国兵はパニックになって、ワーワー騒いでいた。私は輸送機のすぐ近くに補給車を止めると、急いで車から降りた。すぐに火が追いつき、ホースからタンクへ炎が登った。最初は補給車から煙が出る程度だったが、しばらくすると爆発し、その炎が輸送機にも燃え移った。それから輸送機の羽根の燃料タンクに引火し、もうもうと黒い煙を吐き出し始めたが、しばらくして爆発し、羽根が折れ胴体が真っ二つに折れた。
私と真栄田さんは走って空港から飛び出した。かなり走って住宅地の中まで来て、やっと走るのを止めた。共にゼーゼーと息がきれいてた。
「あんなに、借りができたな」
私は息が切れていたので、特に何も言わなかった。さすがの真栄田さんも今回の銃撃戦には懲りたようだった。
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