第141話 強奪



翌日、軽トラで嘉手納基地方面へ向かった。私が反対して、降ろしてと言うと、


「じゃ、子ブタ代、まとめて払え」


と迫られ、仕方なくついて行った。


基地があったと思われるところは、一面焼け焦げた原っぱで、ところどころ黒く炭化した鉄骨が立っていて、その向こうに大きな穴が空いていた。その穴のある傾斜の箇所だけ、黒だかりの人が働いていた。重機などで地面を掘り起こしたり、ドリルで穴の底を掘ったりしていた。作業員はほとんどが普通の作業服を来ているが、その中にポツポツ軍服を着た人が混ざっていた。監視役の中国兵だ。


真栄田さんはそれを遠目で見て、穴の周辺にトラックが停まっているのを見つけた。


「あれだ」


真栄田さんは堂々と作業をしている方へ歩いてき、少し離れたところにあるプレハブ小屋に入った。私も後に続いた。


中に入ると、休憩所になっていて、その奥が更衣室だった。彼は誰もいない中、更衣室で作業服に着替えた。


ポイッと、私にも作業服を放り投げた。


「お前もな」


私も服を着替えて、彼に続いてプレハブ小屋から出た。


彼は何食わぬ顔で、金塊らしき木箱を詰め込んでいるトラックに近づくと、運転席に乗った。私も助手席に乗った。すぐに中国兵が走ってやってきて、窓ガラスから何やらワーワー言っていたが、真栄田さんは中国兵の頭を押して窓ガラスを閉めると、トラックを走らせた。


後ろから、中国兵が大声で叫んで、他の中国兵を呼び集めていた。


真栄田さん、大胆すぎる。


「なあーに、俺にかかれば、軽いもんよ」


トラックはしばらく山道を進んだ。しばらくすると、後ろから中国兵が四駆やバイクで追いかけてきた。バイクがトラックの助手席側に来た。


「こっち、追いかけてきた」


私がバイクを指差すと、おっさんはトラックを遠慮なくバイクに幅寄せし、バイクが側道のヤブにぶつかって転倒した。


タタタッと、後ろから四駆が銃撃してきた。荷台があるから直接の被弾はないが、威嚇効果はある。バックミラーを見ると、二人乗りのバイクから、トラックの荷台に数人の中国兵が飛び移ってきた。左右と上からだ。


真栄田さんはトラックを右に左にと大きく幅寄せし、ヤブにトラックをこすりつけ、左右の中国兵を振り落とした。上の中国兵は運転席の上まで来て、屋根から運転席の中央に発砲した。


私は驚いて、ドア側に避けた。真栄田さんは急ブレークを踏み、屋根の中国兵がフロントガラスまでずり落ちてきた。彼は一生懸命足を屋根の突起に引っ掛けてぶら下がっていたが、真栄田さんがワイパーを動かして、更に洗浄液を発射し、とうとう彼はそのまま下に落ちていき、次の瞬間トラックがガタッとなにか踏んだみたいに上に跳ねた。


「よっ」


なんか料理でフライパンをひっくり返す時みたいに、真栄田さんはノーテンキな声を出した。


この人は今の状況をわかっているのだろうか?


「行き先は?」


私が聞くと、真栄田さんは、さー、どこかなー、と何とも心もとない。


四駆はまだ後ろから追いかけてきて、銃撃を繰り返した。道は開けて市街地に入ってきた。


バーンと音がして、急にトラックが斜めになり、ガタガタ揺れだした。パンクだ。タイヤを撃たれたのだろう。


速度がもろに落ちてきて、すぐ後ろに四駆が付いた。次の角で真栄田さんは右折しようとしたが、パンクしたトラックはバランスを崩し、右へ横転した。私は必死にベルトに掴まった。トラックが停まった。すぐに逃げなければと、私は窓ガラスを開けて這い出そうとすると、真栄田さんが早くいけよ、と、お尻を押してきた。


「もう、触らないで」


思わず声が出たが、押してくれたおかげで素早く窓から抜けられて、真栄田さんも続いた。振り返ると、トラックの後ろに木箱とそこから飛び出た金塊が散乱していた。


本当に、金塊があったんだ。


四駆がすぐに来たが、中国兵は金塊に夢中だった。


私達はそのまま近所の住宅の庭を通り抜けて、走って逃げたが、中国兵は追いかけてこなかった。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る