第140話 旧日本軍の財宝

バスは横転して動けないが、軽トラックは1回転して元に戻っていた。彼は子ブタを数匹集めたが、荷台が壊れているのですぐに子ブタは逃げた。彼は癇癪を起こし、子豚を投げ捨てて軽トラックに乗り込んだ。軽トラックが動き始め、緩やかな路肩を登って道に出ようとしていた。道に出れば、軽トラはそのまま進める。


私は軽トラに駆け寄り、乗せてと頼んだ。


「お前が、俺の豚を弁償してくれるのなら」


雨足は更に強まった。私はとりあえず助手席に滑り込んだ。


彼は運転中もブツブツ独り言を言っていた。私が乗ったことで、子豚を弁償してもらえると思っているのだろう。私は了承したつもりはないが。


ちょっとした町に着いた。辺りは少し暗くなり始めていた。


彼は小さな旅館の前に軽トラを止めると、宿泊の手続きをした。


「お前の親に豚代請求するから、家まで送ってやるが、他のことは知らん。宿も自分で探せ」


そう言って一人で宿に入っていた。私は着替えも何もなく、なすすべもなく、ぼーっと旅館の前の会談に座って、このままここで夜をこそうかな、と思った。


野宿の経験は岐阜であったし。


しばらくして、彼が出てきて、私を見てびっくりした。ちぇっと舌打ちして、夕食を食べに行くのに、連れてってくれた。


二人で向かい合って席に着き、おっさんから別勘定だからと念を押された上で、注文した。


食べながら、自己紹介した。おっさんは真栄田というらしい。今までいろんな仕事を流しでしてきて、そろそろ定職を持とうと養豚業のために子豚を買った時に、バスと事故に遭い、全部を失ったと愚痴の連続だった。


場の空気が悪くなり、私は黙って聞いていると、隣の机の客の会話が聞こえてきた。


中国軍が第2次世界大戦当時の旧日本軍の金塊を、嘉手納基地の下から掘り起こしたらしい。原爆で基地の滑走路に大穴が空いて、そこから地下室が出てきた。その中に太平洋戦争当時に、旧日本軍が東南アジアに軍票の裏付け用に送る予定だった金塊が、通商路が米潜水艦により途切れたことにより運べなくなり保管された。その直後に沖縄で地上戦になり、米軍占領直前に地下室への入り口をコンクリート詰めにした。米軍は地下に金塊が埋まっているとも知らずに、帝国海軍航空隊の嘉手納飛行場を接収し、米嘉手納基地として75年使ってきた。


今、中国軍は金塊を掘り起こし、トラックに運び込んでいて、後2,3日で完了するらしい。


真栄田さんはじっとその話を聞いていた。


食べ終わって、二人で店を出た。


「これだ。俺にもツキがまわってきた」


真栄田さんが言った。


旅館について、外で寝るか?と聞くので、私が答えあぐねていると、


「しかたねーなー、入れてやるよ。ただし、付けだからな」


と旅館の同じ部屋に入れてくれて、布団を思いっきり離した。一応護身用としてナイフを枕の下に入れて寝た。

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