第139話 沖縄上陸



約束の日に東京港へ行き、船長に会い、輸送船に乗せてもらった。とてつもなく大きな船で、船の甲板に学校のグラウンドが3つくらい入りそうだった。船員用の狭い部屋に通された。船員はフィリピン人やインドネシア人などアジア系のほとんど外人だった。皆私がわざわざ中国軍の支配下の沖縄に行きたがるのを不思議がった。


船内で2泊して3日めの午前、船長に呼ばれた。


「船会社の社員以外は中国軍の審査が入って、多分連行されるから。約束通り、この辺で小舟で降りてもらえる?」


救命ボートが海面に下ろされ、私はそれに乗り移り、船長に礼を言い、ボートを漕ぎ始めた。


しばらくして、ボートは国頭村の赤崎の少し北の海岸に漂着した。母の実家は沖縄本島の一番南だった気がする。この島がどのくらい大きいか分からないので、歩いていくのは無理だろう。ちょっと歩くとそれなりの広さの道があった。私はその道に沿って南に歩きながら、バス停を探した。


暫く進むと、バス停があった。2時間に1本くらい。私は気長に待った。


段々空が薄暗くなり、天気が怪しくなってきた。やっとバスが来て、バスに乗った途端、大雨が振り始めた。私は大きな荷物を持って席についた。バスは意外に混んでいた。


ノロノロ南下し始めたが、途中でがけ崩れがあり、道が狭くなっていた。ギリギリ車1台通れそうな幅だ。その狭い部分で、向こうから来たオンボロな軽トラックと鉢合わせをしてしまった。お互い道を譲らず、運転手同士が口論をした。しびれを切らしたバスがじわじわと進もうとしたら、軽トラックがズルズルっと横滑りをし、道からずり落ちて加速して横転した。それにつられて泥濘んだ道が崩れて、バスも傾き始め、ゆっくりと横転した。乗客は一斉に窓から這いずり出た。まだ地盤が悪く、バスはじわじわと倒れたまま横滑りを始めた。大雨の中、乗客はどこにあるか分からない雨宿りをできる場所を求めて走っていってしまった。


私は着替えの詰まった大きなカバンをバスの窓から苦労して引き出すと、泥濘んだ路肩を雨の中、道まで登り始めた。足が滑りひっくり返り、全身泥だらけになった。その拍子にかばんが開いてしまい、着替えが泥水の中に散らばった。もう最悪だった。


すると、路肩のさらに下の方から人が出てきた。さっきの軽トラックの運転手だろう。彼も泥だらけだった。彼は一匹の子ブタを抱えていた。


「おい、俺の子ブタを弁償しろ」


姿形から、40台中頃の男性だった。


「お前の乗っていたバスのせいで、トラックがひっくり返り、俺の子ブタが逃げた」


それは私のせいではなくて、運転手のせいだろう。私も被害者だ。


でも、この人にそれをここで言っても通じそうにないので、反論せずに、荷物も放り出して、その場を立ち去ろうとした。



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