沖縄

第138話 地元の出会い



大宮の家で、私は再び引きこもりになった。コンビニも再開したので、今までのバイト代の貯金で食べていたが、だんだん貯金も足りなくなってきた。


仕方なく、近所で町内会がやっている炊き出しにでかけた。食器は自宅から持っていくが、並んで、ご飯とおかずと味噌汁を注いでもらい、学校の運動場に置かれた机の上で、食べた。この辺りは昔の知り合いがいるから、居づらかった。


突然、後ろから声をかけられた。


「あれ、西村?」


小学校の時、同じクラスだった中村くんだった。彼はすぐに人を茶化し、囃し立てる苦手なタイプだった。ちょっと雑談した後、彼が聞いた。


「学校、どこ?」


私の一番イヤな質問だ。嘘をつこうかと思ったけれど、地元だから下手な嘘はすぐにバレる。しぶしぶ答えた。


「行ってない」


軽蔑しきった顔と、侮蔑の言葉を予想して、目を瞑った。全身固まった。


”うわー、中退?人生終わってるじゃん。これからどうするの?風俗?でも、お前ブスだから客付かねーよ”


彼のそんな声が頭の中で響いた。


もし、皆の前で大声で私をバカにしたら?


私は今まで、普通の人ができないような、人の生死に関わる色んな経験をしてきた。直接人も殺したこともあった。彼を人通りのいない裏路地に誘い込んで、ナイフでひょいっと首を一突きすればすぐに殺せる。もし彼がひどいことを言うようなら、その報いを受けさせよう。そんなことを考えた。


でも、いつまで経っても次の言葉は聞こえなかった。恐る恐る彼の方を見上げると、彼はちょっと視線を外して、ふーんと言って、どこどこの店は食料品が安いとか、そんな話を続けた。


あっ、話題変えた。


そう思った。それから、誰がどうしたとかそんな話をして、去っていった。


中村くん、丸くなった。


地元も意外と良いものかもしれない。



翌日も、炊き出しに行き、食べていた。斜め前に座っていた中年の男性が、声をかけてきた。


「自治体連合が日本を統一してくれたおかげで、暮らしぶりが良くなった。物流が途切れると、生活に必要なものが手に入らなくなるからね」


私がまだ沖縄は統一できていないと言うと、彼は答えた。


「国としてはそうだけど、物流的には今でもやり取りはあるよ」


彼は船会社の社員で、東京那覇間の輸送船の船長をしていると言った。


私は母の実家が沖縄なので、小さい頃に数回行ったことがある。ふと、もしかしたら、母は実家に避難しているかもしれないという気がした。今まで沖縄なんて遠い所、行くのは無理だと諦めていたけれど、今でも輸送船が行き来していると聞いて、急に現実味が湧いてきた。私はその船に乗せてほしいと頼んだ。


「別に構わないよ。ただ、那覇港にはいると中国軍の審査があるので、その前に小舟で降りることになるけど」


私は了承した。次の船の出港の日時と場所を聞き、ありがとうと感謝して別れた。



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