第136話 日本政府崩壊
一方、私はその頃、市内のホテルにいた。通信小隊長が私を探していた。丘珠空港にいた32連隊が道庁を占領したが、首相はいなかった。B作戦は32連隊が首相の身柄を拘束する事になっており、首相の居場所が分からず、首相補佐官と付き合いのある私に心当たりを聞くためだ。
小隊長が厨房に来て、私を呼んで事情を説明した。私は総合庁舎じゃないかと答えた。彼は私に案内してほしいと言い、私も彼と一緒に車で総合庁舎に向かった。
総合庁舎の敷地に入ったときに、上空からヘリのパタパタという音が聞こえてきた。
「やばい、急げ」
小隊長の掛け声で、皆が建物に入り、エレベーターに乗った。最上階に着き、そこから階段で屋上へ登った。
屋上の一番向こうにヘリが着陸しようとしていた。そこに向かう3人の後ろ姿が見えた。その中に首相補佐官の国崎さんがいた。
「国崎さん」
私は大声で叫んだ。ヘリの音が大きく、聞こえなかったかもしれないけど、人が来たという気配がしたのだろう。国崎さんがこちらを向いた。私は彼のもとに走った。話したかったからだ。
「来るな」
彼は胸のホルスターから銃を出し、私に向けて撃った。
私は呆然とした。銃は全然外れた。撃ち方も隊員と比べて、全然素人だった。私は急に怒りが湧いてきた。これからずっと一緒にいられると思っていたし、どんな事があっても絶対守ると言ってくれたのに。
立ち止まって銃を構えている彼のもとに、私は走った。国崎さんはもう一発撃ったが全然外れた。あたっても良いと思った。国崎さんのもとまで来ると、私は思いっきりほっぺたを叩いた。
ぺしっ
首相や秘書、私の後ろにいる小隊長が一瞬、何やってるの?という感じで固まった。
「早く来い」
首相が国崎さんに声をかけた。私は国崎さんと話したかった。
「ずっと一緒だって言ったじゃない?」
「ごめん。でも事情が変わった」
国崎さんは銃を下ろした。
「でも、私の気持ちは変わらない。私はあなたの優しいところを好きになった。それは周りがどうなろうと変わらない」
「君は僕の本当の姿を知らない」
「麻薬のこと?」
一瞬沈黙があったが、国崎さんは続けた。
「知ってたんだ」
「うん、でも止めればいいじゃない」
「僕は体制に寄生してしか生きていけないんだ。君みたいに自分で自分の人生を切り開いていく勇気も気力も能力もない。そしてこの体制はもう終わる。僕の居場所はどこにもない。僕に君は眩しすぎた」
国崎さんはそう言うと、右手の銃を自分の頭に向けた。
彼の後ろで首相が言った。
「何している、置いてくぞ」
それから、ヘリのパイロットに向かって離陸しろと指示した。
小隊長が隊員の狙撃兵にパイロットを狙えと言った。パイロットの頭に一発で命中し、パイロットはガクッと前のめりになった。
同時に、国崎さんの銃も火を吹いた。私の目の前で、国崎さんはバタッと倒れた。私は何も出来なかった。
小隊長率いる歩兵小隊がヘリに向かい、首相と秘書の身柄を拘束した。首相が無礼者、俺を誰か分かっているのか、放せなどと喚いているのが上の空で聞こえた。そして、私は目の前に倒れた国崎さんと二人、屋上にずっと立ち尽くした。
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