第135話 クーデター失敗
知事は首相とゴルフの後、宿泊するホテルに車で向かった。途中、地元警察による検問があった。
「免許証、見せてもらえますか?」
知事の運転手が免許証を見せた。
「本土の方ですか?後ろの方も、顔をちょっと」
警官は知事の顔を手元の写真と見比べて、えーっと驚いて、運転手にエンジンを止めて、車から降りるようにと言った。
運転手は知事にどうしましょうか?と聞いた。
「突っ切れ」
知事がそう答えると、車は急加速し、検問を突破して、空港へ向かった。警官はパトカーに戻り、知事発見、身柄確保失敗と無線連絡した。
一方、丘珠空港で待機していた32連隊歩兵小隊のもとへ、道警の車が来た。数人の刑事が車から降り、ヘリの横で、焚き火に当たり暖を取っていた隊員に近づいてきた。
「小隊長はどこにいる?」
小隊長が不思議そうに、はぁーいと手を上げた。
「小隊長、自衛隊法違反により逮捕令状が出ています。道警までご同行願います」
小隊長は、火に当たりながら、ぽかーんという顔をした。
「俺は、ただ、知事の命令で来ただけだけど」
「それが自衛隊法違反です。これが札幌地裁の出した逮捕令状です」
刑事が紙を1枚小隊長に向かって差し出した。
小隊長はしばらく考えていたが、近くにいた隊員に顎で指示した。
隊員がパーンと刑事に向かって銃を撃ち、刑事がバタッと倒れた。周囲の刑事や警官が信じられないといった感じでドン引きした。
「こいつら全員、縛ってそこの倉庫に放り込んでおけ」
小隊長が周りの隊員に指示し、携帯で知事に電話をかけた。
「知事、面倒なことになりました。道警の刑事が来て逮捕すると。道警単独の意志じゃなくて、上が絡んでますよ」
「こっちも検問で拘束されそうになった。今空港に向かっている。矢部、あいつタヌキだ。最初から連邦制などする気はなくて、単にわしらをおびき寄せる口実だ。わしらの身柄拘束して、力ずくで自治体連合を旧日本政府の配下に置くつもりだ。B作戦始動してくれ」
小隊長は了解と言うと、無線機でB作戦始動と指示した。
その指示を待ってましたとばかりに、石狩湾沖に停泊していた揚陸艇が石狩市と小谷市の堺の新川の近くの海岸に接岸し、重戦車が続々と上陸した。戦車隊は列を組んで猛スピードで札幌を目指した。
途中で、道警のパトカーが戦車隊に止まるように拡声器で言ったが、戦車隊は止まらず、パトカーが道の中央に陣取ると、戦車はパトカーにぶつかり乗り上げて越していった。
北海道の総合庁舎に陣取っていた旧日本政府に、戦車隊の上陸の連絡が入った。パトカーを押しつぶして札幌を目指していると。
首相秘書が青ざめて言った。
「首相、自治体連合軍が石狩湾から上陸したそうです。相手は重戦車のためパトカーでは全く太刀打ちできません。後20分ほどで、ここは包囲されると思われます。一刻も早く避難を」
首相は苦々しい顔をした。
「埼玉の田舎もんめ。こんなに気が効くとは。甘く見ていた」
「ヘリを手配しました。後10分ほどで到着するとのことです。屋上まで退避を」
秘書の勧めで首相は総合庁舎の屋上へ向かった。
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