第134話 連邦制



夜、ホテルに帰ると、国崎さんから電話があった。


「大丈夫?」


彼の声が聞けただけで嬉しかった。


「全然、大丈夫」


彼に麻薬のことを聞きたかったが、その前に、昨日の襲撃は私の可能性もあるから、私は謝った。


「私のせいで、あなたに迷惑をかけてしまった」


そして、昨日話さなかった、私の過去の出来事を話した。沢山の人から恨まれていることを。


「私の両手は血で汚れている。いや、手だけでなく首までどっぷり血の池に浸かっているの。もう窒息しそうな程に。あなたは私にはふさわしくない」


彼は少し黙っていた。


「完全無欠な人など、いないよ。そうやって正しいことを求めるところも、君の魅力だと思う。僕の方こそ、謝るべきだ。君をとんだ災難に巻き込んでしまって。もう一度会って話したい」


私の隠したい過去を知っても、国崎さんはそう言ってくれた。


私は麻薬のことを聞きたかった。でも聞けば彼との関係が壊れそうで聞けなかった。それに聞くなら、直接会って聞きたかった。



翌日、埼玉知事が三沢基地から自治体連合軍のヘリで札幌の丘珠空港まで来た。他の幹部を運ぶためという名目で、ヘリが数機連隊を組んできた。


知事は直陸後すぐに、首相と会談するために、北海道庁に向かった。


道庁で、知事は矢部旧日本政府首相と会談し、事務方で合意して文書化されていた連邦制の宣言書にサインした。その後、首相に誘われ、郊外のゴルフ場へ一緒に向かった。



今日の夜は、知事とそのお付きの幹部が泊まるから、いつもより食事の量は多くなり、また豪勢にと指示があった。


ちょっと用事で、ホテルの廊下を歩いていると、32連隊の通信小隊の小隊長に会った。


「よう!」


向こうから声をかけてきたので、挨拶した。知事のお付きで来たらしい。彼は私が国崎さん宅で襲撃されたことを知っていた。


「災難だったな」


まあ、とかくらいしか返事ができなかった。彼によると、32連隊が丘珠空港にいるという。


軽く雑談した後、また厨房に戻った。



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