第133話 麻薬組織
次の日の夜、32連隊の調査局と名乗る人が私を訪ねてきた。
「補佐官のことで、ちょっと伺いたいことがあります」
彼と宿泊ホテルの1階のロビーで会った。
「補佐官は麻薬取引に関わっている可能性が高い。いや、政府側の麻薬組織との窓口という立場です」
彼は言った。
私が詳細を尋ねると、本州の自治体連合軍内で、以前から、ごく少量であるが、麻薬が広まっていることは判明していたが、その流通経路をたどっていくと、北海道に行き着いた。そして、更に追うと、補佐官の経営する貿易会社に行き着いたという。
「今の旧日本政府は税収もなく、実質形だけですが、維持していられるのは麻薬売買のおかげです」
道内の麻薬組織が、海外から仕入れた麻薬やその原料を北海道内で加工し、本州に密輸する。旧日本政府は麻薬組織が本州で麻薬販売するのを黙認する代わりに、売上金の一部を受け取り、その売上金で旧日本政府は維持されているという。
彼は旧日本政府関係者と親しくするのは危険だといい、自治体連合にも旧日本政府を信用しないように助言していると言った。
「自治体連合と旧日本政府の関係がどうなるにせよ、麻薬流通をこのまま野放しにしておくことは出来ません。麻薬組織を壊滅することが必要であり、それは旧日本政府の崩壊に繋がります」
そして、何か手がかりになるようなことはないか聞いた。実際にそんなことは知らなかったので、私は特にないと答えた。
彼は昨日の補佐官宅の襲撃は、麻薬組織による警告だと言った。
「自治体連合と連邦制にせよ、統治系統が整ったら、本州での麻薬捜査が北海道に及びますから。彼らとしてはこのまま北海道が自治体連合とは独立した、今のままの統治機構のほうが都合がいいのでしょう」
彼と別れた後、私は補佐官の事を考えた。確かに公務員にしては羽振りがよかった。高級外車に乗り、タワーマンションに住んでいるし。もう一度会って話したい。そして、彼の言ったことは誤解であってほしかった。
急遽、埼玉知事が北海道に来て、旧日本政府の首相と会談することが決まった。反対派の活動が激しくなる前に、既成事実として合意する戦略らしい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます