北海道

第130話 首相補佐官

日本に属していた、北海道と沖縄を除く領域は、自治体連合の施政下になった。


北海道は旧日本政府の避難先であり、北海道知事が直接的には行政を行うものの、並行して旧日本政府の内閣の閣僚メンバーがほぼ揃っていた。彼らはあくまでも居候的な立場であったが、自治体連合との統合を拒否し、自分たちこそが正当な日本政府であり、自治体連合が自分たちの下に戻るべきだと主張していた。


一方、自治体連合側は、苦労して旧日本領を統一し、国内のエネルギー事情、物流状況、治安を改善してきたのに、旧日本政府の配下に入れば、全く苦労が報われない。


それに、旧日本政府は、中国軍の侵攻に対して大して反撃もせず、さっさと逃げ出したという不信感があった。


ただ、ともに日本を統一する必要は感じており、事務レベルの会合を持つことになった。



私は相変わらず大宮の駐屯地の厨房でバイトをしていた。


自治体連合の幹部が札幌に交渉に行くことになり、護衛に32連隊が付くことになった。その連隊の食事のために、私達も付いていく。食べ物位、現地で調達しても良さそうに思えるが、部隊の食事に毒を入れられたら全滅なので、食事は信用できる組織に任せる方針だった。



私も厨房のメンバーと一緒に、札幌に行った。


事務レベル会合は約1週間の予定で、私は幹部の宿泊ホテルとは別のもっと安いホテルに泊まり、そこから幹部用のホテルの厨房へ1日3食分の料理のために、通った。


札幌で働き始めて、2日目の昼後、ちょっとしごと合間で休憩していると、一人のスーツの男の人、年は30くらい、に声をかけられた。


「西村さんですか?」


私がはいと答えると、彼は私の活躍を聞いていて、一度会ってみたかった、と答えた。


「今度、もっとゆっくり話をしませんか?」


彼に促されるままに、その日の夜に、ホテル前で待ち合わせの約束をした。



約束の時間に、彼は真赤なフェラーリでやってきた。普通の30前後の会社員がフェラーリに乗れるわけがない。私が仕事を聞くと、首相補佐官をしていて、国崎だと名乗った。



そのまま、国崎さんの予約したレストランへ行った。席に付き、食べながら話した。


「もっと怖い感じの人かと思ってました」


国崎さんは言った。


「こちらでも、自治体連合の西村さんという女性のことは、有名になってました」


今までの私の活躍から、もっと筋肉メスゴリラみたいな人を想像していたと、彼は言った。


国崎さんは自己紹介をした。東大を出て、国家公務員I種に合格し、内閣府に配属され、30で首相補佐官に任官されたと。


私は今まで東大の学生やOBに会ったことはなく、別世界の人だと思っていたので、急に彼がとても偉大な人に思えてきた。一緒にテーブルに付いている事自体、失礼な気がして、心苦しくなった。


聞かれるままに、今までの、自治体連合での経験を話した。彼はとても興味深く聞いて、何度も感心していた。


食事の後、どうするか聞かれて、自分から希望を言うのも気が引けて、帰ると答えた。


彼は、明日も夜は空いているので、小樽の夜景を見に行こうと誘われた。


「小樽の夜の運河はきれいですよ。西洋風の建物がロマンチックで、一度見る価値はあると思う」


国崎さんは私の話を熱心に聞いてくれて、そんな悪い人には思えなかったのと、ロマンチックな運河というものを一度見てみたくて、結局受けることにした。

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