第126話 思いがけない遭遇

私は大宮に戻り、今まで通りの暮らしに戻った。


陸伝いの日本は全部自治体連合が統一し、残るは北海道と沖縄だけだ。電気は全国的に復旧し、石油の供給もほぼ以前と同じように戻った。そのため、日々の生活は以前と同じ様になり、同時に治安も劇的に改善され、街に活気が戻ってきた。


両親の行方は相変わらず分からなかったので、私は一人暮らしを続け、生活費は大宮駐屯地の厨房でバイトして稼いだ。


バイトが休みの日は、基本的に家にいた。出歩くのが嫌いだから。


でも、どうしても買い物に出かけなければならない用事があり、極稀に駅の方へ買い物に出かける時があった。



今日もそういう日で、必要に迫られ仕方なく駅前まで買い物に出た。で、結局目当てのものは見当たらず、無駄に一日過ごしたなと思いながら帰路についた。その時だった。


「せんり」


ふと、後ろから声がした。


最初は自分に声をかけられたと気付かなかったけど、ふっと自分の名前の千里を音読みすると”せんり”になることに気が付いた。


こんな駅前で私の知り合いはいないはずなのに、と思いながら、私は後ろを振り返ってしまった。


振り返ると、ショートカットの同じ年くらいの男子がいた。服はかなり汚れていて、疲れていそうで、立っているのが精一杯という感じだった。でも、怖い目つきで私を睨んでいた。


ぱっと見て誰か分からなかった。でも、なんとなく見覚えのある顔だ。


そう、九州に行った時の。ノリに似ている。


彼女の親戚かな?でも、なぜ、ここにいるのだろう?


何と返事をしようか迷っているうちに、彼はゆっくりと片手をかばんに手を入れると、中からナイフを取り出し、ナイフの刃を私の方へ向けて近づいてきた。


私はとっさのことで、彼の意図がわからず、逃げるべきか一瞬迷った。そして、彼が間近に迫り、あっ刺される、と思った時に、彼はばったりと私の目の前で倒れた。


私は恐る恐るしゃがみ、彼の顔を覗き込んだ。


彼と思っていたのは、ノリだった。彼女は髪を切り、男のような格好をしていたが、紛れもなく、九州のノリだった。


私は彼女の真意が分かった。私は彼女の父を毒殺したのだから、その復讐に来たのだろう。でも、彼女とはそれだけの仲ではなく、色々と一緒に過ごしたこともあるし、彼女は私に告白してくれたし、このまま彼女をここに放りっぱなしには出来なかった。


私は気を失っている彼女の腕を、肩に担ぎ、家まで連れて帰った。


家で、彼女を私のベッドに寝かせた。彼女はスヤスヤ眠った。


しばらくして、台所でコーンスープとおにぎりを作って、ノリが寝ている私の部屋に行った。彼女は目を覚ましていたが、まだぐったりしていた。


「スープ作ったけど、食べる?」


彼女は特に反応しなかったが、私はスプーンでスープを掬って、彼女の口へ運ぶと、彼女はスープを飲んだ。何杯かスープを食べて、少し元気になったのか、上半身を起こして、スープを自分で飲み始めた。


「元気になって、良かった」


次におにぎりを彼女にあげた。彼女はとてもお腹が空いていたのだろう、貪るように食べた。


ノリは私の問いかけには無反応のまま食べ続けた。


食べ終わると、彼女はまたベッドに横になったので、私は部屋を出て、階下の居間でボーッとしていた。

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