第125話 憎さ倍増

ノリはすぐに乗ってきたバイクに乗ると、車の行った方向へ走った。その方向は高速のインターがあるから、向かうのは北九州方面だろう。多分、その辺に船を隠してあるに違いない。


今まで千里と一緒にいて、彼が実は女だったと気づかず、さらに敵の協力者と連絡をとっていたとも気づかなかった自分が情けなかった。


私はまんまと千里に騙された。


そして、彼女は父を殺した。無性に千里が腹立たしかった。


高速のインターチェンジが見えた。停電が続いているので、料金所やETCは動いていないが、ETCのバーは上がったままになっている。ガソリン不足のため、車自体が殆ど走っていない。インターから中に入り、北九州方面を眺めてみると、夜の暗闇の中を、かなり遠くにライトをつけた車が一台走っていくのが見えた。


あれが千里の車だ。


ノリはバイクで車を追いかけた。一方、車の方も千里も、後ろからライトが一つ追いかけてくるのに気がついた。


相方のスパイに言うと、彼は速度を上げ、グイグイ2台の距離を離した。バイクでは車ほどのスピードは出なかった。ノリはどんどん引き離されてしまった。


ノリは高速上でバイクを止めて、残念がった。しかし、彼らの行くところはおおよそ予測がついた。この辺りで船の発着場といえば、おのずと限られるからだ。彼女はそこへ向かった。


私はバイクの光が見えなくなって、安心と同時に両親の呵責を感じた。ノリには本当にひどいことをしてしまった。父を毒殺したこともそうだけど、ずっと一緒にいろいろな所に行ったりしていたのに、自分の性別を偽っていた。もちろん名前だってそうだ。


一言、謝りたかった。


車は高速を降り、港についた。港の端に、小さめのレジャー船が隠すように停泊していた。


私達は車を乗り捨てると、カバーを取り、小型レジャー船に乗り込んだ。彼はエンジンを掛け出港仕掛けたとき、港に1台のバイクが入ってきた。ノリだった。


彼女は桟橋の直前までバイクで来ると、バイクを乗り捨て、桟橋を船と平行に走って追ってきて、私達に向かって発砲した。弾がスパイに当たり、彼は倒れた。私は彼の代わりに舵を握り、かろうじて外海へ出ることができた。


後ろから、ノリが大声で


「千里、絶対許さないからなー」


と叫んでいるのが聞こえた。



私はその後、呉まで航行し、無事に連合軍に合流できた。


連合軍は翌日、九州に侵攻した。九州側は社長が死亡し、指導者がぽっかり空白になったことと、現場の部隊では連合との合流派が多数いたこと、またそれらが重なり、指揮系統が混乱し、連合軍の侵攻に対してまともな反撃もできず、総崩れとなった。ただ、降伏を決定する責任者がいなかったということが災いし、戦闘がグダグダと長引き、死傷者は多数に上った。結局、1ヶ月かかって連合軍が九州全土を制圧するまで戦闘は続き、西部方面隊は自然消滅という形で、連合の軍事作戦は終了した。

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