第124話 社長暗殺
夜、壮行会の少し前の時間になると、私は窓から見張りの車の位置を確認した。アパートの前に、見張りの車はいつもどおりあった。
私は女性用の服に着替えて、久しぶりに化粧をし、ウィッグを付けて長髪にした。車の反対側の、アパートの窓から、雨樋を伝って下に降りた。
予め用意しておいた原チャリで、壮行会会場へ行った。全く警備の人はいなかった。それでも、ノリと会う可能性を考えて、私は裏口から中に入った。
ホテル内の廊下で何人かとすれ違ったが、誰も私に気づかなかった。
私は厨房に向かった。厨房前には、会場へ運ぶビールが並んでいて、ウェイトレスが次々に運んでいた。私も何食わぬ顔をして、その中にまじり、一緒にビールびんを会場へ運んだ。
会場は、お座敷形式で、ひな壇の中央に社長が座っていて、その左右に、ズラッと幹部たちが並んでいた。数人のウェイトレスがコップが空いた幹部に対して、ビールを御酌して回っていた。私はビール瓶を1本持つと、社長の近くへ行き、社長のコップが空くのを待った。
しばらくして、社長のコップが空いたので、私は近くへ行き、社長にお酌しようとした。彼は疑いもせず、私に空のコップを差し出した。私はビールを注ぎながら、片手に隠した毒薬を素早くコップに落とした。
社長は私にも、毒にも全く気づいていなかった。
この毒は約15分くらいで効果が現れると聞いていた。意外と直ぐだ。私は彼がビールを飲み干したのを確認すると、大急ぎでホテルから出た。
正面玄関から外に出る時に、ノリとすれ違った。私は今まで誰にも気づかれなかったから、ノリも気づかないだろうと思ったのと、突然引き返したら余計に怪しまれると思って、そのまま歩き続けた。
ノリは立ち止まって、私の顔を不思議そうに眺めていた。私はノリの横を通り過ぎると、ホテルを出て、角を曲がった所で待っている連合のスパイと落ち合った。彼は車を用意していた。私はその車に飛び乗り、福岡を後にした。
一方、ノリはホテルに入り、壮行会の会場に行くと、中がガヤガヤと異常に騒がしい事に気づいた。
「社長が倒れた」
誰かが叫んでいた。ノリが社長、父の所へ行くと、彼はもう虫の息だった。彼はノリを認識せずに、息を引き取った。
ノリの知る限りでは、父に持病はない。誰かが社長の息がアーモンドみたいと言い、それを聞いたまた別の人が、それは毒殺の症状だと言った。
ノリはホテルに入る時にすれ違った女に見覚えがあった。千里だ。ノリは大急ぎでホテルから出て、玄関前を探したが、もう私はいなかった。
玄関付近にいた従業員に、私の服装を説明すると、少し離れた角から車に乗っていったと証言を得た。
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