第122話 青酸カリ
翌日、私はノリに昨日と同じ場所をもう少し見たいと言い、約束の時間の少し前に、同じトイレに入った。彼はすでにいた。
彼は九州側の情報を掴んでいた。社長や西部方面隊の幹部が、2日後の自治体連合軍との戦闘に備えて、明日の夜、市内のホテルで壮行会を開くという。
「その時がチャンスです」
彼はそう言って、小さな瓶を取り出した。
「青酸カリです。いわゆる毒薬で、少量を口にするだけで、死に至ります」
私は恐る恐るその瓶を受け取った。
「壮行会はかなり盛大に開かれるようで、その時に入り込めると思われます」
「でも、私は社長に一度会ってるから、顔を知られてる。それに彼の娘は私をよく知っているから、近づけない」
彼は床においてあった紙袋を持ち上げ、私に差し出した。
「女性用の服です」
私は理解できなくて、不思議そうな顔をすると、彼は続けた。
「この服で、女装して下さい。あなたはきれいな顔をしているから、女装しても似合うと思います」
彼は私が女だと知らなかった。そして、彼は計画を話した。
壮行会は色んな人が出入りするから、比較的警備がゆるい。そこを狙って会場に忍び込み、女装して、社長の飲み物にお酌をする際に毒を入れる。厨房で食べ物に毒を入れる方法も考えたが、厨房に部外者が入れいないし、毒味の可能性もある。その点、飲み物のお酌は、すぐに飲むので毒味の可能性がない。
その計画はうまくいきそうだ。
壮行会で社長を毒殺した後、彼と待ち合わせして、海岸へ行き、そこに用意してある船で九州を脱出する、そういう計画だった。
私は服と毒を受け取ると、トイレを出た。その日はそのままアパートに戻った。
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