第116話 素朴な人々

朝食を食べ終わると、ノリはまた私をバイクの後ろに載せて走り出した。私は後ろから彼女の胸の少し下を両手で抱え込んだ。彼女のお腹は柔らかくて、やっぱり女の子なんだな、と思った。


でも、彼女は、私を男と思い込んでいるが、男に後ろから抱かれるのは平気なのだろうか?その辺はおおざっぱというか、私を男とは思っているけど、異性とは見なしていないということかもしれない。


バイクは郊外に出て、一面畑が続くようになった。しばらく行くと農場があり、その前でバイクは止まった。ノリは農家の人に声をかけ、私にいろいろと農場について説明した。要約すると、以前と同じように何の不便もなく農作業できているということのようだった。私は特に何の感想もなく聞いていた。


次にまた、私はバイクの後ろに乗せられ、今度は漁港へ来た。


ノリは漁港の人に声をかけ、同じように以前と同じように漁業出来ているということを説明した。私は黙って聞いていた。まるで中学生の社会科見学みたいで、退屈になってきた。


その日はそれで夕方になり、アパートまでバイクで送ってもらった。


アパートについて、ベッドに横になると、今日一日は何だったんだろう?と不思議な気がした。ノリや社長の意図は、九州がうまく回っているということを、私が連合に伝えることだとは分かるが、果たしてそれが意味のあることだろうか?


翌日も、ノリはバイクで迎えに来て、行き先を言わずに私を連れ出し、いろいろな所を案内した。警察、消防、土木事務所、運送、放送局など、いろいろだった。九州の現状どうこうより、単純に社会勉強として面白い時もあったが、大抵は退屈だった。そして私は特に反論もせず、はいはいと言うことを聞いていた。


食事は炊き出しで食べることが多かった。私がテーブルについて、配られた食事を食べていると、隣に座っていた中年のおばさんが声をかけてきた。


「あなた、連合から来られた方?」


突然のことだったので、私はびっくりした。


「えっ、ええ」


おばさんは息子が東京に住んでいて連絡が取れないから心配していたけど、私を見て安心したと言った。


「あなたみたいな若い子が、こうやって九州まで来れるのなら、もう東京も安全ね」


安全かどうかは分からないけど、一時期の混乱はなくなっている。でもそれをそのまま答えたらおばさんをかえって心配させてしまうから、私は、そうですねと、答えた。


それから少し東京の状況をおばさんに話して聞かせてあげた。


その一連のおばさんとの会話を近くの人が聞いていたのだろう。急に私たちの周りに人が集まってきた。特に私と同年代の子が多かった。女子が多かった。彼らはみな東京の話を聞きたがっているようで、次々に私に質問をしてきた。その質問に答えると、みながうんうんとすごく集中して聞き、さらに次の質問につながり、さらに人が集まってきた。


いつの間にか、私の周りに人だかりができていた。


突然、ある子が私に聞いた。


「彼女、いるの?」


彼女?そうか、私は今、男の服を着て、話し方なども男の振りをしていたか。


いないと答えると、えっーという嬌声が周囲から一斉に上がった。


「どんな子がタイプ?」


答えに窮して、どう答えようか考えていると、ノリが割り込んできた。


「もう次の所、行くぞ」


そう言うと、ノリは私の手を引っ張り、その場から連れ出し、バイクの後ろに乗せた。なぜかバイクの運転がいつもより乱暴に感じられた。

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