第115話 ダイバーシティー



翌日、朝早くドアのノックで起こさた。開けると、ノリと呼ばれた女がいた。


「出かけるぞ」


私は着替えるから少し待ってと言い、女であると分からないように、上着の下に小さめのシャツを着て、胸を抑え込んだ。もともと小さい方なので分からないとは思ったが、念のためだ。


私は部屋から出て、彼女に付いて行った。アパートの下には彼女のバイクが有り、私は彼女に促されて、彼女のバイクの後部座席に二人乗りした。他に仲間が二人いて、彼らも付いてきた。


彼女一人だけだと私が逃げるかもしれないので、監視役といったところだろう。


バイクは走り出した。


私はウラジオストクでタチアナとバイクで二人乗りをしたことを思い出した。あの時は楽しかった。少なくとも、バイクに乗っている時は、お互いに相手のことを友達だと思っていた。


今回は全く違った。ノリと呼ばれる彼女は私に対して、好意は持っておらず、敵意すら持っていそうで、社長に言われてどこかを案内するだけといった感じだった。


それに、私は男だと思われているから、なおさら警戒されているだろう。


着いたところは、どこかの学校のグラウンドだった。プレハブの小屋が立ち並び、その周りに簡易テーブルがずらっと並んでいた。グランドの一部に人だかりがあり、そこで食事を作っているらしかった。


その食事をテーブルに配り、みなで食べていた。ざっと見た所、200人くらいいるように見え、彼らの年齢や性別もいろいろだった。


「うちの会社は戦闘で家をなくした人に、住処を作ったり、炊き出しをやっているんだ」


ノリはそう言うと、近くの空いているテーブルに、私も連れて行った。


食事を配っている人がこちらのテーブルに来ると、


「お嬢さん、ようこそお越しくださいました。サービスしますね」


と言いながら、明らかに他の人より多めに食事を食器に盛った。


お嬢さん?ガラの悪い女にしか思えなかったけど、この辺りでは人望があるのかな?


私は少し彼女の見方が変わった。


「連合はこんなことやってないんだろう?」


ノリの問いかけに、私は返事ができなかった。


炊き出しはどこか特定の会社がやったというのは聞いたことがないけど、少なくとも大宮では町内会でやっていた。


九州では、この会社が政府と同じようなものだから、政府が戦闘で住処を失った人に何かをしているかという問いかけなのだろうけど、そういう真面目な話は正直分からない。高校中退していると、こういう話は本能的に苦手だった。


私が答えあぐねて、首を少し斜めに傾けていると、


「やっぱり、連合は冷酷だな」


と言いたい放題だった。


すると、同じテーブルで日本語ではない言葉の会話が聞こえた。あれっと思ってそっちを見ると、見た目は同じアジア系だけど、中国語で会話している家族がいた。


自治体連合では、中国と韓国は対戦国であり、中国人と韓国人は国外退去するように言われている。もし見つかれば逮捕されて、強制的に出国措置が取られるが、どちらの国も政府が崩壊していて引き取ってくれないので、ロシアへ引き渡していた。ロシアは人手が足りないので、とにかく人員を欲していた。


九州では、中国と韓国に対して、対戦しているという認識はないのだろうか?


私がその家族を不思議そうに見つめていると、ノリが口を出した。


「ここでは、一般の人なら国籍は関係ないんだよ。連合みたいに偏狭じゃないんだ」


私は意外だった。仙台の鍼師や、岐阜での衛星制御装置の奪還の時に中国人には何人も会い、皆良い印象は無かった。もちろん、一般の人と軍人の違いはあるけど、漠然と中国人は怖いと思っていた。


それに、連合を偏狭と呼ばれたことも意外だった。そんな発想自体が、私には無かった。私は今回始めて九州に来たため、連合以外がどんな価値観で、連合をどう見ているかなど、全く無頓着だった。連合の価値観が、日本ならどこでも通じると思っていた。まさか九州と連合で、価値観やものの見方が違うと思わなかった。



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