第114話 軟禁
私はそれから、建物を出て、少し歩かされて、2階建てのアパートのような所に連れて行かれた。裏の外付けの階段を登り、2階の一番奥の部屋の前に来ると、彼女は扉を開けた。
「ここに住め」
私は言われるままに、中に入った。普通のワンルームで、壁際にパイプベッドが置いてあるだけだった。
「どこか出かける時は、隣のやつに一言言ってからにしろ」
彼女はそう言うと、バタンと扉を閉めた。
私は軟禁されたということだ。一人部屋に残されて、とりあえず安心できた。あとは、ゆっくり本州に帰る方法を考えればよい。
社長は私に九州が独り立ちできている様子を見て欲しそうだったが、私はそんなつもりはまったくなかった。自治体連合は北海道と沖縄以外の旧日本をすでに統治している。更にロシアの沿海州政府を旧ロシア政府の後継を承認することと引き換えに、俗に言う北方領土も自治体連合政府に編入していた。どう考えても、九州のほうが分が悪い。九州軍と自治体連合軍が正面衝突したら、九州軍が負けるのは確実だ。それに、私は九州には何の思い入れもない。今まで一度も来たこともないし、あまり良い印象もない。今回、副知事の交渉に通信係として、初めて九州に来た。
私はベッドでごろっと横になった。一時はどうなることかと焦ったが、九州の人たちは意外と良い人たちかもしれない。
しばらくすると、ドアをコンコンとノックする音がして、男がお盆に乗せた食事を運んできた。私はちょっと面食らったが、素直に食事を受け取り、自室で一人で食べた。
部屋に湯沸かし器があるので、それで湯を沸かし、お茶も飲んだ。久しぶりの良い食事だった。自治体連合の部隊と一緒に、現場に出た時は、一応一日3食あるけど、味はひどかった。今回も呉まで来て、そこで食べたけど、あまり美味しくはなかった。それに比べて、この食事は美味しい。
食べ終わって、食器やお盆をどうするか分からず、ドアを開けてみたが、男はいなかった。代わりに近くの道に、車が1台不自然に止まっていた。車内の人影までは見えなかったが、駐車位置の不自然さから、私は監視されているのだなということは分かった。
私は、食器を洗い、お盆の上に置き、それからシャワーを浴び、寝た。
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