第113話 九州独立国



それほど高くもない、7階建てくらいのビルの前にバイクは止まると、私を荷台から下ろし、足のロープを解いた。私は後ろ手を縛られたまま、ビルの中に連れてかれた。階段を何回か登り、4階へ着くと、廊下でしばらく待たされた。しばらくして、ある部屋に入れと言われて、入れられた。


そこは少しへ広めの部屋で、ちょっと高級そうな調度品が置かれており、部屋の中央にはソファーが向かい合ってあった。その向こうには机が窓ガラスを背に置いてあり、その隣に一人の男がこちらを向いて立っていた。そして、机には一人の男が座っていた。


私はバイクの族を率いていた女に、机の前までロープで引いていかれ、しゃがめ、と背中を蹴られた。


「社長、本土の連中の生き残りを連れてきました」


その女は言った。


ある建設会社の社長が九州を支配していると、私は事前に聞いていた。この社長と呼ばれる男が、今九州を支配している男なのだろうか?


彼は私をジロっと見た。


「お前が連合から来た者か?」


こういう質問のされ方だと、代表しているかという意味に取れて、私は自治体連合を代表していなくて、単に通信係なのだけれど、でも、それは見れば分かることだから、単に来たのかと聞かれれば、来ましたと答えるべきだろう。


はい、と答えると、名前を聞かれた。


私は西村千里と、ただし、名前は”せんり”と答えた。


”ちさと”だといかにも女の名前だからだ。


社長はじっと私を見たまま動かなかったが、しばらくすると


「縄を解いてやれ。客人だ」


と、私を縛っているロープを持っている、その女に向かって言った。


その女は少し驚いたような素振りを見せたが、ロープを解いた。


「九州はもう立派な独立国だと言うことをちゃんと見ていって、連合に帰ったらそう伝えてほしい。昔みたいに、東京からの予算に縛られて、なんでも東京の言うことをような時代じゃない。我々は充分に独り立ちできるし、自分の問題は自分で解決できる」


社長はそれから、私の隣の、バイクの族の女に向かって言った。


「ノリ、彼の生活の面倒を見てやれ。あと、いろんな所に案内してやれ。九州が連合がなくてもやって行けているということを示すために」


「生活の面倒をみる?こいつは敵の一味ですよ。北九州の戦闘で何人も仲間がやられた。その仕返しだって、まだ終わっていない。それに、連合は関門海峡の対岸に兵力を集めいていて、いつでも侵攻できる状況ですよ。スパイに決まっている」


ノリと呼ばれたその女は、社長とどういう関係なのだろう?はっきりと社長の命令に反対の意見を述べた。それとも、この社長の周りでは、トップダウンの独裁ではなく、このような意見を言い合える、ある種のボトムアップの進め方なのだろうか?


「こちらも連合と対等に付き合うのならば、紳士的に振る舞ってこそ、一人前と認められるものだ。そんな感情に任せたことしていたら、野蛮だと思われる」


私が今まで会った人の中では、一番紳士的との印象を、私は社長に対して持った。ノリは渋々分かったと言い、私を連れて部屋を出た。



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