第112話 暴走族



その時、道の向こうから、エンジン音が聞こえてきた。複数のエンジン音だ。


私は本能的にどこかに隠れなければ、と周囲を見渡したが、生憎周囲は一面畑で見晴らしが良く、隠れられそうなところはなかった。キョロキョロと隠れられそうなところを探しているうちに、エンジン音の正体、複数のバイクが視野に入り、当然向こうの視野に自分も入っていると思われた。このタイミングで隠れると、余計に怪しまれる。むしろ堂々と普通の歩行者の振りをしていた方が怪しまれないと思い、私は隠れるのを諦め、そのまま歩き続けた。


バイクは10台近くの大集団だった。私を見つけると、1台のバイクが私の前で止まり、故意に立ちふさがった。私が避けて通り過ぎようとすると、その前にまた別の1台が立ちふさがり、私はバイクの集団に囲まれてしまった。バイクたちは、私の周りでぐるぐる回り、私をその輪から逃げ出せないようにしていた。


私はその時になって、やっと視線を上げ、バイクを運転している人達を見た。みな私と同じ位の年の子だ。ほとんどが男だが、女も少し混ざっていた。そして、みなニヤニヤしながら、私を見ていた。彼らは背中にバットやら鉄の棒やら、武器を持っていた。


ガラの悪そうなのに遭遇してしまった。


その中の一人の女がバイクを止め、私に声をかけた。


「お前、本土のもんだろ?」


私は声を出さずにかすかに首を横に振った。


「この辺りに地元のもんはいねーよ。本土からの船がこの沖合で沈んでよー。落ち武者狩りしてんだわ」


その辺の事情を知ってるのならば、変な言い訳は通用しないと私は悟った。その女は私をじろじろ見ながら、フッと鼻で笑った。


「本土の偉いさんが交渉に来ると聞いていたから、どんな人かと思っていたら、こんなガキか?」


ガキ?


私は今、男物の服を着ているので、男と思われているらしい。


彼女はそう言うと、腰から銃を取り出して、私に向けた。そして、私の足元に向けて、一発撃った。私の足元で、小さな砂煙が立った。


私が動じないのを見ると、彼女は真顔になり、他の人に、


「こいつを縛って、連れて行け」


と言った。


二人ほどバイクから降りてきて、私はロープで縛られ、そのままバイクの荷台に横に倒されて乗せられた。私の顔から10cmほどの所で後輪が勢いよく回り、すぐ耳元でエンジンがうなり、足を少し下げればつま先が地面にぶつかり、乱暴に私はバイクで運ばれた。


バイク集団は東に進み、周囲はだんだん都会になっていった。道が広くなり、小さな民家が雑居ビルになり、それから大きなオフィスビルになった。でも、人の気配はほとんどなく、ビルのよく見ると、かなり崩れたり、一部が壊れていたりした。この辺りで戦闘があったようだ。



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