第111話 男装



気が付くと、海岸に打ち上げられていた。一瞬なんでこんなところにいるのだろうと不思議に思って、しばらく考えて博多港に行く途中の船が撃沈されたことを思い出した。


撃沈されたということは、九州側は私達に敵意を持っているということで、歓迎されていないということだ。つまり、見つかれば良いことは起こらない。運が悪ければ殺されるかもしれない。


私は一刻も早くここから少しでも遠いところに離れなければならないと思い、急いで立ち上がると、周囲を見渡した。私がいたところは砂浜で、少し離れたところに道があり、その付近に民家がポツリポツリとあった。


私の服はずぶ濡れで、海水で髪もベトベトしていた。


私は民家の方へ歩いていった。民家はどれも空き家のようで、人の気配が全くしなかった。


「すみませーん」


ある民家の前で声をかけてみた。返事はなく、周囲は波の音しかしなかった。


私はその家の玄関のドアノブを回してみると、ドアは開き、ちょっとお邪魔させてもらった。洋服ダンスっぽいものをさがし、着替える服を探した。じぶんのサイズに合うものは男物のジーンズとポロシャツしかなかった。多分高校生の息子さんがいたのだろう。


この服を着るには、私の髪は長すぎた。男物の服に長髪は目立ってしまう。かと言って、これから他所の家に再び探しに行く手間とリスクはかけたくなかった。


つまり、この服を着るためには、私は髪を切る必要があった。私は近くにあったハサミで、鏡を見ながら自分で髪を短く切った。


もともと私は少し男っぽい顔だった。中学の頃は時々男みたいと言われた。髪を切ると、全身の海水を落とすために、シャワーを借りた。幸い水は出て、更にプロパンも生きていて、お湯でシャワーを浴びれた。


シャワーから出ると、私はその男物の服を着た。


私は本州へ帰る方法を考えた。関門海峡大橋は両側を両軍が封鎖している。でも、九州側さえ突破できれば、本州側の自治体連合軍は自分を保護してくれるはずだ。それに確か関門海峡には、地下に徒歩で渡れる通路があると、どこかで読んだ気がする。そこまで辿り着けば、本州に帰れる。


私は海を左手にして、つまり西に向かって道を歩き始めた。道は海から離れて、陸の方に入っていった。私は道沿いに陸の方に進んだ。暫く進むと、一面畑になり、遠くに所々民家があるような所になった。辺りは全く静かで、時々鳥のなく声しか聞こえなかった。


みな、どこへ行ったのだろうか?死んでしまったのか?それともどこかで集まって暮らしているのだろうか?



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