第107話 走馬灯



私はそれまで、引き続き閉じ込められたままだった。私は頭のルッコラが特戦群に捕まり、その人質交換の条件として、私が指名されているとは知らなかった。昨日の彼らの会話の様子から、てっきりしばらく待っていれば解放されるものとばかり思っていた。


その日の午後になっても解放されないので、少し不安になった。そのまま夕方になり、外は暗くなった。


私は今日一日閉じ込められたままで、解放されなかったので、何か事情が変わり、そしてそれは多分悪い方へ変わったのだろうと思った。


ここがどこかも分からないし、この部屋から逃げ出すすべもない、赤い狼のメンバーはみな屈強な男たちで、私が抵抗して敵う相手ではないし、唯一顔が分かるタチアナも、私を完全に無視していて、助けてくれないだろう。


底冷えする寒さのために体力が落ち、そのため気力も落ちて、私は半分諦めモードになった。あのイワンという男に、死なないように、気が狂うまで虐待を受け続けるのだろうか?


私は半分覚悟を決めた。いざ死を目前に控えると、まだまだやりたいことが一杯あった。人並みの生活を送りたかった。友達も欲しかった。他には?考えてみると意外にない。でも友達は欲しかった。ここ半年で、色んな人に会って、友だちになれそうな人が何人かいた。それぞれいろいろな運やタイミングが悪くて、もう少しで友だちになれそうでなれなかった。だから、余計に友達が欲しかった。


自分なりに、友だちになれる人、なれない人の見分け方が分かった。私の境遇を話して、特別扱いせず普通に接してくれる人は友だちになれる見込みがあった。反対にすごく気を遣ったり、同情したりする人とは、重くてなれない場合が多かった。


タチアナは友だちになれるタイプと思った。でも、なれなかった。私の見込み違いだ。まだまだ私は未熟だったと思ったが、未熟のままもうそろそろ人生自身が終わる。もう少し慎重に行動していれば、と悔やまれる。誰もこういう時にどのように行動するべきか教えてくれなかった。何が危なくて、何が安全で、どこまで進んで良いか。だから、私は自分で経験して覚えるしかなかったけど、一言で言えば、失敗した。事前に教えてほしかった。そしてそれが勉強なんだと、今になって分かった。もっと勉強したかった。


でも、考えてみれば、私の生活、人生は高校に入った時点で破綻していた。遅かれ早かれこうなる運命だったのかもしれない。唯一の願いは拷問があまり痛くないこと、早いうちに気を失うことだ。


そんなことを考えていると、部屋の扉が音もなくそーっと開いた。最初は開いたことすら気が付かなかったけれど、暖かい空気がスーッと足に触れてふと目を上げると、タチアナが私の前に立っていた。


私が身を起こそうとすると、彼女は片手に何かを持って、それを私の顔に押し付け、もう一方の手で後頭部を押さえた。クロロホルムだった。私が抵抗すると、上半身に馬乗りになり、私はハンカチを通して息をしてしまった。気が遠くなり、意識を失った。



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