第106話 処刑確定



翌日、ミハエルが隣町に買い出しに行く際に私を連れていくことになっていた。彼は、一応頭に一言言ってからにしようと思い、頭が来るのを待っていたが、頭はなかなか来なかった。


「頭、遅いなー」


頭以外の全員がアジトの広間に集まっていた。


アンドレイの携帯が鳴った。彼は携帯を操作し、メールを読んだ。


「頭が捕まった」


全員の雰囲気が急に警戒モードに変わり、張り積めた空気になった。


「でも、捕まえたのは警察じゃない。日本の特殊部隊だ。特戦群と名乗っている。彼ら自身からメールが来た」


「日本の特殊部隊?何でだ?」


アンドレイはメールを目で追った。


「千里と交換、と書いてある。場所は明日の朝8時にハバロスク郊外のリカ・ホル川の鉄橋の中央で、と」


皆の表情が急に険しくなった。


「やっぱり、あの日本人は軍のスパイじゃねーか」


沈黙の後、アンドレイが口を開いた。


「どうする?掟5は、一度捕虜になったメンバーは死んだと見なすとある。洗脳を恐れてのことだから。僕たちに捕虜や人質という概念はない」


ミハイルが続いた。


「じゃ、決まりだ。頭は退団。頭だって一度捕虜になっているのに、のこのこ帰ってきたいとは思わねーだろ。あの日本人の女はクロで、即処刑だ。それにしても、マクシム、お前、女を見る目ねーなー」


マクシムはうつむいたまま、苦々しい顔をしていた。アレクセイも処刑に同意するように頷いた。


タチアナが手を上げた。


「掟5はわかる。でも、それを頭にも当てはめるかというと、それはまた別の話じゃない?この赤い狼を作ったのは頭だから。頭なしでは赤い狼は回らないし。まずは頭を取り戻して、頭に進退を聞いてから、決めてもいいんじゃない。そのためには、日本人の女は生かしておいた方が良い」


「それは甘い。一度捕虜になった頭が信用できるかどうか分からない。用心するに越したことはない。今まで俺たちは、そうやって生き残ってきた」


「俺も、その意見に賛成だな。頭なら、俺たちにそう求めるだろう」


マクシムがやっと口を開いた。大勢は決まったようだった。


「そうと決まれば、ことは早い方が良い。さっさと処刑して、ここは引き払おう」


マクシムがそう言って立ち上がった。彼は千里を閉じ込めてある部屋に向かおうとした。


アレクセイが手を上げた。


「あの日本人を殺すのは、イワンがやりたがっていたんじゃないか?イワンは?見当たらないけど」


「武器の調達に行っている。明日まで帰らない」とミハイル。


「じゃ、イワンにけじめつけてもらうのは良いとして、このアジト、どうする?向こうに知られたかもしれないから、さっさと撤収した方が良いんじゃないか?」とマキシム。


「向こうの目的は日本人の子だろ?彼女が助かれば、僕ら自身には興味がないと思う。だから今すぐにどうこうということはないけど、どちらにしてもこのアジトは捨てることには変わらない」


「よし、それで決まりだ」


赤い狼のメンバーは翌日、イワンが私を処刑したら、このアジトを捨てて別の場所に移動することに決めた。



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