第104話 ロシアンマフィア
その頃、彼らは、今日の襲撃について話し合っていた。彼らは赤い狼という名の請け負い犯罪者集団だった。金さえ貰えば理由を問わず強盗、暗殺、何でも行う。その中には比較的まともなボディーガードという仕事も含まれる。第3次世界大戦の前のロシアから彼らは必要とされていた。ロシアの司法がまとも機能していないので、金持ちは身を守ったり、ビジネス上の金銭トラブルの解決に彼らを使っていた。赤い狼のメンバーの出入りは保守的排他的でよっぽど信用できる人しか受け入れない。ルッコラという名のリーダーは他の仲間から頭と呼ばれていた。彼は口を開いた。
「依頼がキャンセルになったから、結果的には良かったものの、ホテル爆破で日本の県知事を殺しそこねたのは、俺らの失点だ。どこから情報が漏れた?」
みな沈黙した。
「宅配会社の車と制服を盗んだことじゃねーの」
「もともと、今回の仕事の依頼人の漁業組合の会長が領土の割譲に反対なのは有名だった。あいつをマークしてりゃ、誰と接触したか、追いかけるのは簡単だ」
ルッコラが言った。
「ウラジの警察に、こっちはどの程度、バレてる?」
しばらく沈黙が続いたが、マクシムという男が口を開いた。
「多分、ほとんど無いだろう。むしろ日本の特殊部隊、何て言ったっけ?」
「特戦群」
「そう、それ。あいつらは油断ならねー。俺らの依頼人、殺しやがった。普通そんなこと、しねーだろ」
ルッコラが口を挟んだ。
「俺達はビジネスで暗殺を請け負ってる。金さえ手に入れば殺しはするが、金が手に入らなければ、殺しはしない」
市庁舎襲撃の時、急にタチアナが引き上げたのは漁業組合の会長が特戦群に殺害され、知事暗殺の代金の支払いが無くなったからだった。タチアナは千里にとどめを差す寸前にその知らせを携帯で受けたのだった。
ルッコラは続けた。
「あの日本人の女は、軍の関係者でなければ、解放する」
みな、声には出さなかったが、納得していた。その時、イワンという男が口を挟んだ。
「俺は納得いかねー。今回の仕事でオルグが殺られた。ウラジの警察か、日本のボディーガードか知らねーが、仕返ししねーと腹の虫が収まらねー」
オルグとイワンは親友だった。
「掟3、むやみな殺しはしない」と、ミハイル。
「そう。関係ない者は殺さない。それが俺達のルールだろ。別に善人面してる訳じゃない。怨みを買うのが少ない程、生き残る確率が高くなるという損得勘定の話だ」とマクシム。
「それは分かってる。もし関係者なら、俺に殺らせてくれ。いや、そう簡単には殺さねー。脳が壊れるまで、苦痛と恐怖と絶望で痛めつけてやる。まず全身の皮を生きたまま剥ぐ」
「好きにしろ」
ルッコラが言った。タチアナは黙ったままだった。
集まりは解散になり、みな、バラバラになった。そのままごろ寝する者、外に食べに行く者。
タチアナは、男ばかりの集団から離れて一人別室で寝ようとアジトの廊下を歩いていた。後ろからイワンが声をかけた。
「タチアナ」
彼女が振り向いた。
「お前、あの日本人と知り合いだろ?」
タチアナはイワンを睨んだ。
「いや、知らない。なんで?」
「お前、あいつと目を合わさなかっただろ。わざと逸らしていた」
「年が近くて女だったから、変な甘えを持たれたら嫌だっただけ」
「ふーん、まあ、良い。俺が殺すときは邪魔させない」
「良いよ。興味ないし」
二人の会話はそれで終わり、別れた。
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