第103話 尋問
ふと目が覚めると、目の前に布があり、全身を麻袋に入れられていることに気付いた。同時に、後ろ手に縛られて、両足も足首で縛られ、口にはハンカチで猿ぐつわをされて、横たわっていた。床がガタガタ揺れていて、エンジン音がするので、車か何かの荷台に載せられてるようだった。袋の外の様子は全く見えないが、時々、周囲に複数の人の気配を感じた。彼らは全く話さなかった。
それから2,3時間たった後、やっと床の振動が止まり、エンジン音も止まった。ガチャッという扉の開いたような音がして、ドカドカという足音が複数聞こえた。突然私は袋ごと誰かの肩に担ぎ上げられ運ばれ、しばらくしてから床に下ろされた。ガタンと扉が閉められる音がして、周囲が静かになった。私は個室に閉じ込められたようだった。
それからまた数時間が過ぎた。夜のせいか、私はいつの間にか眠ってしまっていた。
突然、体が揺れて気がつくと、また誰かの肩に担がれて運ばれた。しばらくゆっさゆっさと運ばれて、袋のまま椅子に座らされた。袋の口が開けられて、頭から袋の外に出された。
私はゆっくりと周囲を見渡した。薄暗い部屋だった。かなり古く、コンクリートがむき出して、どこかの廃墟のようだった。少し広めの部屋で、中央にランタンが1個だけ置いてあり、その周りに全員が輪を作るように座っていて、その中央に私がいた。彼らは全員で6人で、それぞれ床に座ったり、壊れかけの椅子に座ったり、箱に座ったり、中には立ったままの人もいた。全員が私を興味深そうに、かつ警戒して凝視していた。
輪から少し奥まった所に、タチアナが床に三角座りで座っていた。彼女だけは私を見ずに、顔を横に向けていた。
「Кто」
輪の中のある男が私に話しかけた。30くらいで背が高めで、細くもなく太くもないくらいの体つきで、優しそうな顔をしていた。私が分からない素振りをすると、いくつかの別の言語で試し、最期に日本語で言った。
「誰だ?」
私は日本人の観光客と答えた。同じ男が、なぜあの宿屋に入ったのか、と訪ねたので、友達を探していたと答えた。
周囲の全員がじっと私を凝視していた。
「友達を探すためなら、人の建物に勝手に入るのか?」
私はあの宿屋が友だちと会った所に似ていたのと、中から物音がしたので、声をかけて入ったと答えた。
彼らは全員で視線を交差させて、私が信用できるか考えているようだった。しばらく沈黙が続いた。
「日本の軍の関係者か?」
同じ男が再度聞いた。この人がリーダーのようだ。私は首を振った。また沈黙が続いた。
「まあ、良い。いずれ分かる」
そういうと、リーダーは、メンバーの一人に声をかけた。
「アレクセイ。ウラジの入国庁のお前の知り合いに問い合わせろ」
アレクセイと呼ばれた男は、はい、と答え、私の前へ来ると、私に名前と生年月日を聞いた。彼はそれをメモすると、どこかへ携帯で電話をかけて、しばらく話していた。
「明日には分かるそうです」
リーダーはそれを聞くと、私の方を向いて、淡々とした口調で言った。
「嘘をついていたら、殺す」
私は再び袋に入れられ、肩に担がれて個室に運ばれた。個室で袋から出され、手足を縛っていたロープをほどかれた。
個室は4畳半くらいの大きさで、多分倉庫か何かだろう。コンクリートが抜き出しで底冷えした。私は寒さに震えながら、いつの間にか眠ってしまった。
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