第101話 特戦群
少し起き上がり、床に突き刺さっている剣の柄を持ってゆらゆら動かし、やっと剣を抜いた。急いで立ち上がり、部屋から出たが、もうタチアナの姿はなかった。
中央通路に、別の階から新たに警備員がやってきて、負傷者の救出や生死の確認を行い始めた。
私は展示室に戻り、倉庫の扉をノックし、知事に賊がいなくなったと、扉越しに伝えた。扉が開き、知事が出てきた。護衛が二人倒れているのを見て、次に私を見た。
彼は私だけが生き残っているのに驚いていた。
しばらくすると、日本人職員が来て、知事を連れて行った。私は控室に戻った。
最初は混乱した状態で、ガヤガヤしていて、警察の現場検証や、救急車などがひっきりなしに来た。私は呆然として、椅子に座り込んでいた。
ロシア側の警察が、通訳と一緒に一人ひとり話を聞いて回っていて、私のところにも来た。私は知事と5Fにいて、賊に襲われて、護衛が射殺されて、その後に私も襲われたけど、突然賊は帰ったと言った。私を襲った賊は女性だったけど、タチアナとは言わなかったし、前に会ったとも言わなかった。
ロシアの警察は、賊の何人かは警備員との銃撃戦で死亡したと、賊は埼玉知事を探していたから、もともと狙いは彼ではないか、と言った。
その後、しばらくして、県の職員が来て、会場を別にして明日調印式を行うことが決まったと言った。別のウラジオストク政府の建物で、式の後の会食もなしに、調印のみを行うらしい。
私たちは、朝来たのと同じ様にマイクロバスで、宿泊ホテルまで帰された。バスの中で、他の人の会話から、自衛隊の特戦群と呼ばれる特殊部隊が、埼玉知事の襲撃を依頼した人を探し出し、排除したと聞いた。特戦群はあくまでも県の職員のふりをしてロシアに入国し、知事襲撃の情報とその依頼主を事前に掴んでいたと。
ホテルの自室に戻っても、なんか胸のもやもや感が消えなかった。タチアナのことだった。3日前一緒にいた時の楽しい思い出がぶり返してきた。
今日の出来事が信じられなかった。何か事情があるのかもしれない。
私は部屋を出ると、ホテルのフロントへ行き、原チャリを借りると、ホテルを出た。夕方になり、周囲はかなり暗くなっていた。
3日前、タチアナとバイクを二人乗りしてホテルまで来た道のりを思い出しながら、その道を逆行した。
ウラジオストク郊外に出て、そのまま海沿いを、いくつか見覚えのある景色を確認しながら北上した。だんだん真っ暗になってきて、原チャリのライトだけが唯一の明かりになってきた時、見覚えのある建物が見えた。タチアナの働いているという宿屋だった。
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