第100話 意外な襲撃犯

賊が部屋に入ってきた。私は目の前の騎士の鎧を押して、賊に向かって倒した。


ガラガラっと音を立てて、2m位ある大きな鉄の塊の鎧が賊に倒れかかった。賊は後ろに避けようとしたが間に合わず、鎧の下敷きになったが、下から這い出した。銃が鎧の一部に引っかかったまま下敷きになり、賊は銃を取り上げようと、ガチャガチャ銃を振り回していた。


私は賊を見た。タチアナだった。


「えっ」


思わず声が出て、彼女がこっちを見た。彼女にこちらの存在を気付かれてしまった。


彼女は銃を諦めると、部屋に飾ってあったエペ剣をつかむと、私にそれで襲いかかってきた。私は思わず後退りし、近くにあった槍で剣の刃を防いだ。


「私、千里。3日前会ったでしょ。覚えてない?」


彼女は全く反応せず、私のすきを狙ってエペ剣を突いて来た。私の問いかけに反応しないから、他人の空似かもしれない。もともと外人だから、みな同じ顔に見える気のせいだろうか?


私は槍で防戦したが、慣れていないため、ずんずん押されて、後退りした。


その時、何かにつまずいて、後ろに仰向けに倒れ、その拍子に槍を手放してしまった。そのすきを狙って、彼女はエペ剣を私のお腹狙って突き刺してきた。私は本能的に体を右に捻って避けたが、剣の先端がズボンの左側のベルトループを通って、床に突き刺さった。


私は思いっきり勢いを付けて体をねじったけど、剣はしっかりと床に刺さったままで、私の左腰は床に固定されてしまった。


タチアナと思われる賊は、つかつかと壁に駆け寄ると、別のエペ剣を手に取り、仰向けで床に倒れている私のもとに戻ってきて、片足で私の右上腕を踏んで、剣先を私の顔の前に差し出した。


「知事はどこにいる?」


彼女は日本語を話した。やっぱりタチアナだ。


素直に言うべきか考えた。それに、タチアナなら、話せば分かってくれそうに思えた。なんでこんなことをしているのだろう?聞きたいことが色々あった。


なんと答えるべきか迷っているうちに、彼女は私の心臓の真上に剣先を移動させた。タチアナの顔を見ると、彼女は全く無表情だった。


あっ、人を殺した経験があるんだ。


本能的にそう感じた。


彼女はエペ剣を高く持ち上げると、私の心臓に向かって振り下ろした。


「いやー」


叫び声を上げ、目をつむり身を固くした。


しかし、一向に私の胸に痛みを感じなかった。薄っすらと目を開けると、剣は私の胸の寸前で止まっていて、かすかにブーブーという携帯のバイブの音が聞こえた。タチアナの携帯だった。


タチアナは携帯に出て、少し話した。それから、携帯をポケットに仕舞うと、手にしていたエペ剣をぽいっと床に放り投げ、そのまま部屋から出ていった。


助かった、と最初に思ったけど、なぜ私を殺さなかったのだろう?と不思議だった。私はタチアナに声をかけたかった。何か理由があるかもしれないからだ。


でも、実はタチアナは、宿屋を隠れ蓑にした暗殺団のメンバーだったのだ。そして、急に私を殺すのを止めたのは、知事暗殺の依頼人が死亡し、仕事の依頼料の残金の支払いが止まったからだった。

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