第98話 市庁舎襲撃



翌日、朝食をとった後、調印式の会場の市庁舎へ向かった。市庁舎の周囲には、武装した警察が装甲車のような車やパトカーとともに、たくさんいた。昨日、埼玉県知事のホテルで爆破事件があったため、警戒していた。


私達は事前にもらったIDカードを見せて、市庁舎に入った。調印式は午前10時からだ。9時半くらいに、護衛のパトカーや白バイ、装甲車に囲まれて、知事の車が市庁舎前に到着した。私は窓から知事の到着を見ていた。知事は車から降りると、前後左右をボディーガードに囲まれて、そそくさと市庁舎の建物に入った。


私は特に仕事はないが、、秘書課長から雑用を言われる可能性があるので、5Fの控室で待っていた。控室前の廊下には大きく”日本政府代表団”と書かれていた。


知事は案内され5Fへエレベータで行き、沿海州知事と彼に忠誠を誓う東部軍管区の司令官と、通訳を介して懇談した。しばらく話した後、別々の部屋に分かれて、休憩になった。10分後の、10時から、5Fの本会議室で日露安全保障条約の調印式が行われる。


その少し前、偽造IDで市庁舎の地下駐車場に入ってきた運送会社のマークの付いたバンが1台あった。駐車場からの出入口の一番近くに停まると、バンの後部ドアが開き、数人がドカドカっと降りてきた。みな、運送会社の制服を着ているが、手をポケットに入れていた。建物内に入ると、非常階段を通り、1Fに登った。階段を出た所に、警備の警官がいた。彼は運送会社の制服を着た男を見ると、今日はここから向こうは立入禁止だ、と手で追い返す仕草をした。すると、運送会社の制服の男はポケットからサイレンサー付きの拳銃をぱっと取り出し、警官に向け音もなく発砲した。警官はばっさりと倒れた。階段からぞろぞろと仲間が出てきて、彼らは慣れた手付きで警官を担いで、近くの部屋に運び片付けた。


私は知事に、お茶を運ぶために、サービスワゴンにコップとお茶やお湯を入れたポットを載せて、1Fの食堂からエレベータに乗って5Fに向かった。エレベーターが開くと、警備員にIDを見せて進み、知事控室に向かった。控室の前にも警備員がいて、IDを見せて部屋に入った。


控室というけれど、一つの会議室のような広さで、結構広い。奥の方のソファーに知事が座っていた。私は知事の近くへ行き、テーブルの上にコップを置き、お茶を入れた。


窓際には二人の職員が立っていて、ソファーには知事の他にもう一人の職員も居た。


知事はソファーの職員と話していた。


その時、扉の外、廊下で大きな音がした。殴り合いのような、人と人が激しくぶつかるような音だった。それからパーンという銃の発砲音がした。続けて発砲音が複数回聞こえた。あきらかに偶発的な銃の暴発や事故ではなく、意図を持った襲撃だった。



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