第95話 血よりも固い



「いつまでウラジにいるの?」


「1週間の予定」


へえー、短いんだね、と彼女は少し意外そうな顔をした。


「まあ、良いや。気が向いたら、連絡して」


そう言って、紙の切れ端に、電話番号を書いて、私に渡した。


私はそのメモを大切に胸ポケットに仕舞いながら、ボスについて質問した。


守るべき人という表現が気になったからだ。親を守るということがちょっとイメージ出来なかった。


「ボスは、私の親でもあるけれど、命の恩人でもある」


彼女は、赤ちゃんの時に、屋外に捨てられていたのをボスが拾ってくれたと言った。拾われなければ、そのまま凍死していたと。


「私にとって、ボスとこの宿屋の仲間は家族だし、私の全てなの」


私はタチアナを羨ましく思った。自分の全てと思える家族がいること、自分の全てと思える仲間がいること。


血の繋がりがないのに、どうすればこんな強い絆を作れるのだろう?


もっとタチアナについて知りたかった。私はいろいろ質問した。彼女はそれに答えてくれた。


気づくと、夜中12時を過ぎていた。


宿屋の朝は早い。


タチアナは私をベッドに勧め、彼女は寝袋で床で寝ると言った。私は断ったけど、彼女に客だからと言いくるめられて、結局ベッドで寝ることになった。


私はベッドの中で横になりながら、このままこの宿屋で、タチアナと一緒に働くのも悪くないかも、と一瞬思った。


私が求めていたのは仲間のはずじゃなかったのか?いい機会じゃない?こんな強い絆で結ばれた仲間こそ、私がずっと探していたものじゃなかった?


ロシア語をすぐに覚えられると、タチアナは言っていたし、真剣にここで働くことを考えても良いかもしれない。


タチアナは、私をよく思ってくれているし、何より命の恩人だし。良い友だちになれるかも。


私はそんなことを考えているうちに、眠ってしまった。



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