北方領土

第89話 南樺太と千島列島復帰



本州は、沖縄と北海道を除き、すべて自治体連合の配下に入ったが、まだ経済的には混乱していた。日本の金融機関が第3次世界大戦の影響を受け、swiftに接続できなくなり、中東からの原油の輸入が滞り、日本全国で燃料不足が顕在化していた。


旧日本政府は北海道に避難し、今や支配地域は北海道のみであるが、海外からは正統政府と認識されていた。ただし、彼らに海外まで行って原油の輸出再会交渉をする力は残っていなかった。


埼玉県庁のエネルギー課は、原油輸入再開のために、職員を中東に派遣したが、どこが日本を代表する政府であるかを巡って混乱し、中東諸国はなかなか輸出再開を決めなかった。


一方、ロシアは、第3次世界大戦で、モスクワ、エカテリンブルグ、キエフなど大都市は核攻撃を受けて壊滅状態で、モスクワの中央政府は事実上崩壊し、全土が無法状態になっていた。地方政府が地元の軍部と組み軍閥化し、ロシア統一を目指ししのぎを削っていた。


その様子はまるで日本と同じだった。


そんな時、ロシアのウラジオストク政府もとい軍閥の代表が新潟に来日した。彼らの要求は、ウラジオストク政府をロシアの正当政府として、日本の承認だった。


現在新潟を支配しているのは自治体連合で、自治体連合は、ある条件と引き換えにウラジオストク政府の要求を飲むことに決めた。


その条件とは、


・日本への、原油、天然ガス等のエネルギー供給


・自治体連合を日本の正当な政府であるとの承認


・旧ポーツマス条約時点の領土の復帰


であった。


自治体連合の幹部が新潟へ赴き、ウラジオストク政府の代表と会談した。


ウラジオストク政府は、1項、2項については合意したが、3項については渋った。自治体連合としては、中東へ職員を派遣中でもあるので慌てず、交渉の打ち切りを通告した。


すると、向こうから新たな条件を提示してきた。


・ウラジオストク政府との安全保障同盟


である。具体的には、自治体連合とウラジオストク政府のどちらかが攻撃されたら、自国への攻撃とみなし、支援するという内容だった。ただし、支援の内容・程度はその時の状況に応じて話し合うというものだった。またこの同盟には相手国の領域の無害通航を認めることが含まれていた。


自治体連合は安保同盟を飲む代わりに、ウラジオストク政府がポーツマス条約時の領土の復帰に合意し、代表団はロシアに帰国した。


正式な条約発行の調印式をウラジオストクで行うことになり、自治体連合から埼玉県知事が代表して、訪露することになった。


調印式は前後の宿泊を含めると3日間で、日本代表団はウラジオストクの高級ホテルを1棟貸し切る。


日露間の条約締結に、かならずしも皆が賛成しているというわけではなかった。


ポーツマス条約の領土復帰により日本に引き渡される千島列島、南樺太周辺を漁場とする現地の漁業組合が、日本への引き渡しに反対しているという情報が、事前に訪露した事務レベル代表団によりもたらされていた。ロシアではゆるゆるの漁業規制が、日本では厳格に規制され、漁獲量が減ることを恐れていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る