第87話 サメ襲撃
私は急いで水面を見渡した。サメの背びれは見えなかった。安心して、今のうちにジェットスキーによじ登ろうと思った時、一瞬嫌な予感がした。
サメだから、海中に潜れる。すぐにいなくなるはずがない。
私は水中銃片手に水中に頭を入れて、周囲を見渡した。
ぎょっとした、すぐ近くの海中にサメがいて、真正面からこちらへ向かって来た。ギザギザの歯が並んだ口が半開きになっていた。とにかく水中銃をサメに向かって発射した。
シュパッと音がして、銛が発射された。サメの目に刺さった。
サメは横へ方向転換し、目から薄黒い血が水中に紐状にただよった。
私は急いでジェットスキーによじ登った。座席に座り、エンジンを掛けた。
「腰を持ってて」
アクセルを吹かし、加速した。
錬太を乗せているせいか、ここへ来た時よりもスピードが出なかった。波がきついのでバランスを崩す易く、あまりスピードを出せなかった。
漁船から少し離れて、もう大丈夫だろうと思った時、ジェットスキーがガクンっと揺れた。サメが斜め後ろから体当たりしてきたのだ。
サメはジェットスキーより泳ぐのが速いようで、今度はジェットスキー前方に回り込み、前から体当りしてきた。目には銛が刺さったままだった。
私は急いで舵を切り、正面衝突を避けたが、船体の斜め前方にサメがぶつかり、横転しそうになった。
サメが怒ってる。
そんな気がした。目に銛を打ち込まれたから、怒るのは当然だが、私たち人間は人間同士で助け合わなければならないし、サメは錬太の命を奪おうとしていたから、私も仕方なくしただけだ。サメにそんな理屈は分からないだろうが。
サメは単に餌を食べたいだけかもしれない。餌の邪魔をされたから、怒っているだけかもしれない。
サメはまたジェットスキーの先回りをし、前方からこちらに向かってきた。銛はサメの右目に刺さっている。サメは前からぶつかってくる時、口を上に向けて、直接噛みつこうという素振りを見せていた。船体の左にサメがぶつかれば、サメは口を上に向けるために顔の斜め左を上にするはずだった。
私はジェットスキーを減速させて、ゆっくり舵を右に切った。サメはそのまま私たちの方に直進してきた。そして、予想通り船体の左舷に、顔の左側を上にしてぶつかってきた。私は左目に向けて、水中銃を撃った。
銛が当たったかは分からない。サメは潜っていったきり、姿を見せなかった。私はジェットスキーを再び加速させて、港まで戻った。
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