第84話 自信過剰
「俺は、もう一人前の漁師だから。こんな簡単な仕事で終わりたくないんだ」
漁師の上手い下手は私には分からない。でも、ちょっと彼の気持ちが分かった気がした。簡単に手に入ったものの価値は分からないものだ。彼は簡単にこの一家の生活に必要な魚を漁で獲ってきていた。それに自信を持ったのだ。
それに、このくらいの年代の男の子って、ちょっと自信過剰のところがある。私の中学時代にも、そういう子がいた。自分の位置づけが分かっていなくて、過大評価する子が。
で、私は男の子が自信を持ち、自信過剰になるのは別に悪い気がしなかった。むしろ、好感が持てた。素直に応援してあげたいな、と思った。でも、それだと友梨が困ってしまうし、何とも言えなかった。
彼は友梨と私が説得しにかかっていると受け取ったようだった。
「もう良い」
そう言うと、真っ暗な夕闇の中へ、家を飛び出していった。私は玄関まで追いかけて、扉から外を覗いたが、もう彼の姿はなかった。
「大丈夫。時々あることだから」
友梨は私の近くまで来て、そう言った。でも、彼女は大丈夫そうには見えなかった。明らかに落ち込んでいた。
彼らの仲たがいの原因は、相手が自分の期待通りに相手が動いてくれないことではなく、相手に対しての興味がなくなってしまったことに思えた。前者なら相手に期待しているから、まだ救いがある。でも後者は人間関係を維持する意欲、意図がなくなってしまったから、あっさり切れてしまう気がした。
友梨と錬太の間には3人の赤ちゃんがいるから、それが辛うじて二人の関係をつないでいるが、赤ちゃんがいなかったら多分切れてもおかしくない感じだった。
彼女は居間に戻ると、隣の客間に黙々と私の布団を敷いてくれた。中2なのにその姿に生活の疲れのようなものを感じた。
これが普通の夫婦の間でもありうることなのか、それともこの二人がとても若く結ばれてしまった結果なのか、分からなかった。
私は彼女にお休みを言って、布団に入った。なかなか寝付けず、ずっと目が冴えていた。夜遅くに玄関がそっと開く音が聞こえた。多分錬太が帰ってきたのだろう。安心したせいか、その後すっと眠りに入ってしまった。
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