第83話 すれ違い
第3次世界大戦になってから以降は、学校がずっと休みのため、錬太が自ら漁に出て魚を取ってきていた。友梨は祖父に猟銃の使い方を教えてもらい、山で猟をした。
私は友梨の話を聞いて、日本でもこんな生き方をしている人がいるんだ、と素直に驚いて、うらやましかった。そして、中学生同士で生きているということに尊敬の念すら感じた。私は彼らより2才から3才上だけど、こんな真っ当な生き方はしたことがなかったし、そういう発想すらしたことがなかった。食べ物はどこかで買ってくるという考えしかなかった。
この二人なら、これからも生きていけるな。
そして、私も、そういう関係になれる人がいたら、たとえ貧しくても、一緒に田舎で二人だけで暮らしていくのも悪くないな、と思った。
私から見たら、彼らは幸せそうに見えた。
食後、食器を洗うのを手伝いながら、友梨と話していた。彼女は必ずしも幸せではなさそうだった。
「錬太は、この町を出たがっているの」
彼は都会に行きたがっていると、彼女は言った。
別に何か宛てがあるわけではないが、漠然と都会に出たがっていた。そして、こんな田舎には居たくないらしい。
でも、友梨はこの町から離れたくなかった。それに祖父もいるし、現実的に離れなれない。つまり、彼が都会に行くということは、二人の別れを意味していた。
「私は錬太にここにいてほしい。今の生活で、全然困ってない」
私は錬太の気持ちが今一つ分からなかった。彼はあまり私の前では話さなかったから、現状に満足しているものと思っていたけど、実はそうではないらしい。
考えてみると、錬太の身内はこの町には誰もいない。それにここはもともと友梨の家で、錬太は居候みたいな位置づけになるから、居辛いという気持ちも分かる。
「どうしたらいいと、思いますか?」
私には全く分からなかった。錬太の言い分も聞いてみたいと思い、彼女にそう言った。
「私もちゃんと話したことなかったから。聞いてみる」
片付けが終わり、今に戻ると、祖父はすでに部屋に寝に行き、錬太と3人の赤ちゃんがいるだけだった。
友梨が、錬太に今後の話題を振った。彼は最初は話したくなさそうだった。何度か彼女が聞くとやっと彼は答えた。
出来るだけ早く都会へ行きたいこと、都会で何をしたいかは特に決めていないこと、そして、こんな田舎にはもう居たくないということ。
大宮もそんなに都会ではないけど、ここよりは大きな町だ。私はずっと大宮にいるけど、だからと言って別に良かったとは思えない。多分住んでいる場所はあまり関係ない。
彼が都会へ行っても、多分何も変わらない。むしろ、ただの中学生だから、何もできないだろう。今は日本全体が混乱しているから何か仕事はあるかもしれない。でも子供でも出来る仕事は大して収入もよくないし、社会の最底辺だ。むしろ、この町に居続けた方が衣食住はあるし、生活の糧もある。
私は、やんわりとそんなことを言った。
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