第81話 解体

彼女は友梨と名乗った。私は年を聞いた。


「14」


彼女はそう答えた。


食料を調達するために、私は盗んだりしていたけど、彼女は自分で猟をしている、私より年下なのに、しっかりしている。


山道の方が近いから、と彼女は言って、山の中にずんずん入っていった。尾根を超えて下ると海が見えてきた。山の麓に古い家があり、周囲を低い柵が囲んでいた。


彼女は柵の中に入ると、イノシシを地面にドサッと置いた。そして、庭に植わっている2本の木に、高さ1.5mくらいの所で横に棒を渡すと、イノシシの両足をその棒にくくりつけた。イノシシは棒で足から逆さ吊りにされる形となった。


彼女は納屋からナタとたらいを持ってきた。


「ちょっと首、押さえてて」


私はイノシシの首を両手で抑えた。ゴワゴワした毛と、その下に硬い筋肉があった。


たらいをイノシシの下に置くと、彼女はナタで首を切りつけた。勢いよく血が出てきて、下のたらいに溜まった。


そして、イノシシの腹を縦に裂き、内臓を取り出すと、足首から皮をはぎ始めた。体まで皮をはぐと、頭を落とし、手足や胴体をバラバラに解体した。動物のイノシシは、あっという間に、肉屋で見慣れた普通の肉片になった。


「手伝ってくれてありがとう。お茶でも飲んで聞く?」


うんと答えて、彼女に続いて家に入った。


ただいまー、と彼女が大声をだすと、お帰り、と奥から男の人の声が聞こえた。座敷に上がると、高齢の男の人が座っていた。


彼女が私を、お客さん、と紹介した。彼女のおじいさん、祖父だという。彼女は私を彼に紹介すると、その隣の床の小さな布団の中に並んで寝ていた3人の赤ん坊に一人ひとり頬ずりした。


「私の赤ちゃん」


彼女はそう言った。


両親の赤ちゃんで、彼女の兄弟を、自分の赤ちゃんと表現したのかな?


でも、誰の子?と聞く勇気はなかった。


お茶をもらいながら、私は自分のことを簡単に話した。埼玉から来たこと、四国は初めてで、気候も暖かく、のどかな雰囲気が良いこと、バイトで給水の手伝いをしていること。今までの様々な作戦については、話さなかった。子供や高齢者にシビアな話は向いていないと思ったからだ。


彼女も身の上を話し始めた。両親はずっと前に事故で亡くなったこと、それ以来、祖父と3人で暮らしていること、食料は以前から海や山から自力で調達してきたこと。


「もう一人って、誰?兄弟?」


私の問いに、彼女は一瞬顔を赤らめた。私はおじいさんの方を向いたが、彼は無反応だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る