四国

第80話 猟銃の中学生



私はしばらく姫路にとどまっていた。


四国は中国地方が自治体連合に加わることになると、自ら自治体連合に加わりたいと、恭順の意を示し、自治体連合側も受け入れた。


四国はたいした混乱もなかったが、原油などのエネルギー供給が停まっていたため、生活は困窮していた。火力発電所も止まり、停電が続き、そのため断水し、水道設備がメンテなしには使えなくなっていた。


メンテが終わるまでは、自治体連合軍の給水車が四国各地に展開した。私も、人手不足のため、駆り出された。


四国の南側の四万十市に、給水のために、私は来た。住民が持ってきたポリタンクに、給水車から水を入れる作業で、簡単だった。大宮での厨房のバイトの延長で、バイト料もでる。こういう作業が良い。


給水車の近くのテントで、寝泊まりしていた。テントは山麓に設置していて、生活の荷物はその付近に置いてあった。


のんびりとした雰囲気の町で、辺りは静かで、日はポカポカと暖かかった。


私は荷物を取りに、テントから少し離れ、山の茂みに近付いたときだった。


パーン


明らかに銃声だった。私は本能的に身をかがめた。また静けさが戻った。おそるおそる立ち上がって周りを見ると、近くの背の低い草むらがガサガサッと揺れた。しばらく見ていると、草むらの揺れが、こっちに向かってきた。


イノシシだった。大人でもなく、子供でもない、ちょうどその中間くらいの大きさだった。イノシシは怪我をしているようで、後ろ足から血を流していて、私の前まで来ると、力尽きてバタッと倒れた。


さっきの銃声は、このイノシシを撃った音だったんだ。


私は安心して、倒れたイノシシを見ていた。イノシシは目を閉じて、今にも絶命しそうだった。


「それ、私のだから、取らないで」


突然後ろから声をかけられた。


振り返ると、山の茂みの間に、猟銃をこっちに向けた女の子がいた。中学生くらいの子だ。


「見てただけ、取らない」


私は慌てて否定した。彼女は銃を下ろし、こちらに向かってきて、慣れた手付きでイノシシの口を縛った。


それから、イノシシの足と手を縛り、肩に担ごうとしたが、イノシシはちょっと大きかった。担げない。


「手伝おうか?」


私は声をかけた。


彼女はちょっと迷ったが、一人で運べないので、じゃー、と私の申し出を受けて、一緒に運ぶことになった。


私は、他の隊員に給水作業を少し抜けると伝え、イノシシを運び始めた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る