第79話 成功の代償



恵美さんは呆然として、うずくまっていた。


せっかく、父を救って、会えたのに、すぐに別れてしまい、かつその別れは永遠のものというのは、さっきの楽しそうな様子を見ていただけに、苦しかった。


彼女は私より辛い立場かもしれない。私は両親の安否が不明だから、まだ生きている可能性はある。でも、恵美さんはほぼ無い。


私は恵美さんのような立場になったことがないので、直接的に彼女の気持ちは分からない。分かると言えば、思い上がりだろう。でも、私よりもっと空虚感を感じているだろうとは想像できた。


しばらく無言の時間が過ぎた。周囲は暗くなってきた。私は恵美さんの気が済むまでここで一緒にいた。それくらいしか、私に出来ることはない。


周囲が真っ暗になって、恵美さんは立ち上がった。


「帰ろう」


そう言って、二人でトラックに乗った。恵美さんが運転した。帰りの道中、二人の間に会話はまったくなかった。


一路東に向かい、関西の第3師団警備領域に入った。ここまで来れば、中国軍に襲われる心配はない。私は姫路駐屯地まで彼女に乗せてもらい、そこでトラックから降りた。


別れ際に、私は彼女に感謝の言葉を伝えたが、彼女から返事はなく無言だった。


まあ、そうだろう。私は彼女にとって父の死に直接関連するし、私を思い出せば父を思い出すことになる。だから、私のことなんか早く忘れたいだろう。


私は駐屯地に入り、そこの責任者に作戦のこと、自分のことを説明した。姫路から大宮へ連絡が行き、私はしばらく姫路で留まることになった。


唯一心残りなことは、鉄橋を戦車隊が渡り始め、恵美さんが起爆を躊躇した時、私が代わりに起爆しようとしたことだ。その事により恵美さんに起爆を促すことになった。


私はあのことを恵美さんに謝るべきだったのに、その時は気付かなかった。


罪悪感から、少しずつ泥沼に沈んでいく気がした。



自治体連合軍は関東から関西に兵力を移動させ、準備ができ次第、13旅団の領域に進攻した。兵力の圧倒的な差で、大きな戦闘もなく、自治体連合軍は中国地方全域を占領し、中国軍の残党を掃討した。中国地方の各県の知事は自治体連合に加わった。



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