第78話 特攻

鉄橋を爆破しただけでは、戦車隊はバックして別の道から呉まで来ることが出来る。どうしても崖の爆弾を爆破する必要があった。遠隔爆破が出来ないならば、直接爆弾のそばまで生き、発火する必要がある。


「俺が行ってくる」


龍峰さんはそう言って、走り出そうとした。そして振り返り、恵美さんの元に走り、もう一度肩を抱いた。


恵美さんは父のしようとすることの意味を察し、呆然とした。


「まだまだ話したいこと、あったのに」


戦車隊は道をこちらに向かって進んできていた。


「生き延びろよ」


そう言って、龍峰さんは鉄橋を走って渡っていき、道に面する崖の山に登っていった。


恵美さんはその場で力尽きて、しゃがみ込んだ。戦車隊が一列になって鉄橋を渡り始めた。向こうからこちらは影になっているから見えないが、戦車隊が鉄橋を渡り終えれば、見つかってしまう。


「恵美さん、早く」


私は恵美さんに鉄橋の爆破を促した。鉄橋を爆破したら、川の向こう側に残された龍峰さんはこちら側へ来ることは出来なくなる。もちろん、ずっと遠回りをすれば、来ることは出来るが、岸の向こう側には逃走用の車もなく、韓国軍が大勢いるので逃走は困難だろう。それに、崖の爆弾を起爆させた時点で、起爆させた本人、つまり龍峰さんは即死だろう。


戦車隊の先頭車両は橋の中央辺りまで来た。もうすぐこちらが見つかってしまう。


「私がやるね」


私はそう言って、鉄橋の爆弾の起爆装置に手をかけた。恵美さんが走ってきて、私から起爆装置を取り、自分で押した。


ドカーンという音が鉄橋の下の橋脚から複数聞こえ、鉄橋上の道路にヒビが入った。それから道路が斜めになり、鉄橋の中央の1/3くらいが道路の上の数台の戦車とともに沈み込んで、下の川に落ちていった。後ろから続いていた戦車が1台、無くなった鉄橋上の道路に進み、前のめりに川に落ちていった。


向こう岸の道路上では、戦車が渋滞を起こして停まった。


その時、崖の上で複数の爆発が起き、崖が崩れ、大量の土砂が道に流れ込んだ。もうもうと砂ぼこりが巻き起こり、道の上で停まっていた戦車隊は土砂に押し流され、下の川に落ちていき、かろうじて流されなかった戦車は土砂に埋もれてしまった。


しばらくして砂ぼこりが収まると、道の横の山は、崖が大きくえぐれ、原型をとどめていなかった。


戦車隊は壊滅だった。多分生存者は一人もいないだろう。そして、龍峰さんも巻き込まれたのは確実だった。


敵の援軍は壊滅し、呉の海自基地は守られ、作戦が成功したのに、二人共嬉しい気持ちになれなかった。

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