第77話 爆破準備
「急ごう」
龍峰さんが声をかけた。韓国軍の援軍がもう島根に上陸している頃だった。トラックには、爆薬とタイマーも積まれていた。拷問室で恵美さんが、龍峰さんから聞き、必要なものをトラックに積み込んでおいた。
恵美さんは中国軍の作戦指揮所で、韓国軍の援軍がどの道を通ってくるか知り、広島と島根の県境のダム湖の2つの鉄橋を落とし、その中に閉じ込める作戦を立てた。
私たちは、荷台のバラバラ死体を近くの傾斜から谷へ捨てると、トラックに乗り込んだ。
トラックは3人席で、龍峰さんが運転し、その隣に恵美さん、窓際に私が座った。恵美さんはずっと父の肩に頭をもたれかかっていた。
特に会話もなく、時々何か思い出したようにボソッと二人は話していた。無言の状態が長く続いたけど、それでも二人は幸せそうだった。
見た目は完全に仲の良い、溺愛の相思相愛の親子に見えた。私の目の前の親子は、役割とか偽ではなく、本物の親子だ。本物の親子は、こういう態度を取るのだろうか?そして、私も、自分の父や母に会ったら、こういう態度を取れるだろうか?
今まで、父や母に会わないでずっと過ごしてきてそれに慣れてしまった。さらに私の場合は、その前に引きこもっていた時に、距離的にはすぐ近くにいたのに、精神的にはずっと遠くにいた。
私の両親は私を探しているのだろうか?それも分からなかった。でも、仲が悪いと言っていた龍峰さん親子がこんななら、私も同じような態度を取るかもしれないし、私の両親も同じような態度を取るかもしれない。
ふっと、私は両親に会いたいな、と思った。親子って、意外に、実は、良いものかもしれない。私の心の中に、両親を求める気持ちがあるんだということの発見が意外だった。
そして、そう思うと、次に、私の両親も私に会いたがっているだろうという気がして、無性に嬉しくなった。
トラックは186号線を北上し、仙水湖の手前まで来た。この湖にかかる鉄橋を爆破し、韓国軍の援軍の進軍を止める。その後、その道に面した崖を爆破し、軍勢の上に土砂を積もらせて生き埋めにする計画だ。特に鉄橋の近くは崖が急で、かつ道のすぐ下は川なので、軍勢が土砂に押し流されることが期待できた。
龍峰さんは崖の上に爆薬を持って登り、数カ所に爆薬を仕掛け、遠隔爆破用の信号線を鉄橋のこちら側まで引っ張って来た。
恵美さんは鉄橋の橋脚に爆薬を仕掛け、同じ様に信号線を引っ張ってきた。それぞれの信号線の先に、自転車の空気入れのような起爆装置をつなげた。
鉄橋の向こうの、山の峰に沿った道に、戦車隊の先頭車両が見えた。
起爆装置の電源を入れた。鉄橋の爆薬の通電確認ランプは点灯したが、崖の上の爆薬の通電確認ランプが点かなかった。どこかで信号線が切れている、または接続不良で、このままでは遠隔で爆破できない。
何度か電源を入れ直したが、結果は変わらなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます