第76話 父娘再会
包帯男は、大きなバケットの付いた台車を示し、ここに入れと言った。それで外に連れ出してくれると言う。私たちは言うとおりに、そのバケットの中に、二人で折りたたむように入った。包帯男はその上にビニールシートを被せ、その上に、水崎さんの体を切断して、置いた。彼は拷問室の扉を開けると、見張りの中国兵に、元の持ち場へ戻って良い、と伝えた。
私と龍峰さんはバケットの中で息を殺していた。その後、ガタガタと揺られ、いくつかの角を曲がったりした。外から、死体を処理してくる、という包帯男の声がし、バケットを通して聞こえる音から、建物の外に出たようだった。
駐車場まで来ると、包帯男は、幌付きのトラックの後ろの荷物用エレベータに台車を載せ、台車ごとトラックの荷台に載せ、海田市駐屯地を出た。
「さっきはすまなんだな。本気で言った訳ではないから。後で助けに行くつもりだったんだ」
私を水崎さんに売った件だと分かった。他に方法はなかったし、最終的に助かったのだから良かったのかもしれないけれど、やっぱりショック。
しばらくトラックは走り、郊外まで来ると、トラックは路肩に止まった。
包帯男は荷台に乗り、バケットの上から水崎さんのバラバラの死体をどけ、ビニールシートを開いた。私たち二人は、絡まった狭く苦しい体勢から解放され、はぁーっと深呼吸してバケットから出た。荷台には切断された手足が転がっていた。私たちは荷台から降りて、包帯男に感謝した。
「本当に助かりました。感謝の言葉もありません。ところで自治体連合軍の方ですか?」
龍峰さんが聞いた。包帯男は何も返事をせず、メガネを取り、頭の包帯をほどき始めた。頭の上半分が現れて、髪型から女性だと分かった。更に包帯を解くと、顔が現れ、最期に首の包帯を取ると、首から小さな機械を外した。この機械で、あの人工音声を出していたのだろう。女性の年齢は意外に若く、20才前後に見えた。
彼女はじっと龍峰さんを見ていた。不思議に思って龍峰さんを見ると、彼も彼女を見ていた。
「お父さん」
包帯男の女性が声を出した。
「生きてたのか!」
龍峰さんはそう言って、二人は抱き合った。しばらく肩を叩いたりして、お互い目に涙をためて抱き合っていた。
彼女は龍峰恵美といい、龍峰さんの娘さんだった。
龍峰さんが出張中に海田市駐屯地が中国軍に占領されてしまい、強制的に協力させられたと言った。
「反対したり、抵抗した人は、みな殺された」
彼女はそう言い、助かりたいために協力することにしたという。
ただ、中国軍に協力していると周りの人に分かると、裏切り者とあからさまに言われ、それがとても苦痛だったので、小さな火傷をしたことをきっかけに、包帯で顔を隠し、声も出なくなったと言い訳して、人工音声で話すようにしたと言った。
龍峰さんは特に何も言わずに、再び彼女を抱いていた。
彼にとっては、娘が生きていただけで、十分満足だった。
私は、龍峰さんの話で、娘さんは不良だと聞いていたけど、今目の前にいる娘は全く不良には見えず、むしろよく出来た娘に見えた。
よく出来たを通り越して、私と自分の父親の命を救ったのだから、立派であり、普通では出来ないようなことだろう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます