第75話 拷問室
彼は包帯男に命令し、私たちは彼ともう一人中国兵に銃を向けられて、地下の部屋に連れて行かれた。その部屋は狭く、真ん中に椅子が固定されていて、その隣に台があった。台の上には、注射器や糸のこぎり、ペンチ、釘と金槌などが置いてあった。床は掃除してあったが、黒く変色した血の跡がいたる所に残っていた。
私はどうやって尋問するか全く知識はないが、この部屋で拷問を行うとは本能的に分かった。
しばらくすると、水崎さんがその部屋に来た。
「まずは、お前からだ」
龍峰さんが指さされ、彼は椅子に座らされ、足首、手首、首を椅子に固定された。
私は中国兵に隣の部屋に連れて行かれた。その部屋はもっと狭く、私は足首と手首を鎖で壁に繋がれた。
私の目の前で扉が閉まると、中国兵が銃を持ち、見張りに立ったのが、扉のどぞき穴から見えた。
絶体絶命だ。出来るだけ痛くない方法で死にたい。
それだけだった。全身脱力して、ぐったりとして、その場にヘナヘナとしゃがみ込んだ。
のぞき穴越しに、隣の声が分かった。水崎さんと包帯男の人工音声が聞こえた。しばらくして、人を殴る音や、機器を扱うガタンという音などが聞こえた。
そしてしばらくして、男性のくぐもった叫び声が聞こえた。猿ぐつわをされているのだろう。何回か叫び声が聞こえたが、やがて聞こえなくなり、最期に銃声が1発聞こえた。
龍峰さんは拷問の末に殺された。拷問は嫌だ。こんなことなら、もっと早く楽な方法で自殺しておくべきだった。
鼓動が速くなり、意識が遠のいた。
「次、お前だ」
包帯男が私の部屋の前に来て、そう言い、扉を開け、中国兵が鎖を外した。包帯男は中国兵に、ここで見張ってろ、と言い、私の腕を掴んで、隣の拷問部屋に連れて行った。
私はぐったりして、自分で歩けないので、包帯男に引きづられるように拷問室に運ばれた。後ろで扉が閉まった。床には血だらけの男性が転がっていた。包帯男の後ろに、もう一人男が立っていたが、それは水崎さんだろう。顔を見る気力もなかった。
すると、包帯男が私を後ろから抱えるようにして、片手で私の口を押さえ、もう一方の手を自分の包帯の顔の口の前で指を一本立てた。静かにしろという意味だ。
なぜだろう、と不思議に思って水崎さんの方を見ると、顔がなんか違う。水崎さんではない。混乱してすぐに思い出せなかったが、しばらくして龍峰さんの顔だと分かった。彼も口の前に指を一本立てた。
私は床に血まみれで倒れている男性の顔を見た。猿ぐつわをされていて、横顔だから最初はよく分からなかったけど、それは水崎さんだった。
理解できなかった。なんで、水崎さんが死んで、龍峰さんが生きているの?
私が落ち着いたのが分かると、包帯男は私の口からそっと手を離した。龍峰さんが小声で言った。
「彼は味方だ」
私は包帯男を見た。顔中包帯で、メガネをしているから表情は読み取れなかったけれど、包帯男は頷いているようだった。
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