第73話 裏切り

私たちの車は南下し海が見えてきた。海沿いの市街地に入り、どうするか考えるために、車を停めた。近くに定食屋があった。せっかくだから食べながら考えよう、と龍峰さんが言い、私も同意した。


海沿いの定食屋で、地元の漁業関係者が使うせいか、朝から開いていた。彼は定食を頼んだが、私はあまりお腹が空いていなかったので、軽い麺類にした。


食べていると、ドカドカドカっと大勢が入ってきた。


視線を上げると、カーキ色の制服を着た団体だった、15人位。見てすぐに中国兵だと分かった。


中国兵は食堂の真ん中を陣取ると、横柄に店員に注文し、ワイワイガヤガヤ喋りながら食べ始めた。私たちは食堂の隅で、出来るだけ目立たないように食べた。


龍峰さんが食べるのを止め、考え事をしているようだった。


「それしかない」


彼はボソッとそう言うと、中国兵の団体の中に入っていき、一番大声で騒いでいた人に声をかけた。


「仲間になりたい」


彼がそう言うと、中国兵は一瞬静まり返り、次の瞬間爆笑した。


「俺たちが誰か分かっているのか?」


私はびっくりし、そして嫌な予感しかしなかった。多分、龍峰さんは中国軍の入り込み、そこで武器やら弾薬やらを調達しようという考えなのだろう。しかし、そんな簡単にできるものではないし、無茶というか、無謀というか。


龍峰さんは、自分たちは戦闘の経験があり、役に立つとPRしていた。そして元自衛隊員で、脱走してきたと言った。


中国兵の反応は全然良いものではなかった。彼のPRも全く役に立たなかった。


中国兵は私を見ると、彼に連れかと聞き、私を寄こせというような意味のことを言った。彼が渋ると、中国兵は銃を抜き、笑いながら彼に向けた。


彼の計画は完全に失敗だった。この距離なら外れることはないし、こんなに大勢中国兵が狭い食堂の中にいれば、逃げることも不可能だった。私はどうしようも出来ず、ただ座ったままだった。


中国兵が龍峰さんに狙いを定め引き金を引こうとした時、やめろ、と中国兵の団体の中から声が聞こえた。皆が声の主の方を見ると、そこには全身包帯ずくめの人が座っていた。顔を含む頭部は包帯でぐるぐる巻きで、薄い色付きのメガネを掛けていた。彼は中国兵の団体の端の席に座っていたが、制服の胸の紋章から少し身分が高そうだった。彼の声は機械による人工音声のようで、映画のダースベーダーみたいだった。


彼は、入隊希望ならボスに判断を仰ぐから、基地まで連れて行け、と周りの中国兵に言った。彼らは静かになり、渋々それに従い、私と龍峰さんは後ろ手に縛られて、トラックの荷台に載せられた。

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