第72話 麻薬工場

夜中、私を揺する人がいた。龍峰さんだ。


「起きて」


私は寝ぼけ眼で、周囲を見渡した。まだ真っ暗だった。彼に時間を聞くと、2時だと言った。


「出発の準備をして」


私はゲリラたちと一緒に行動するのかと思い、急いで服に着替えた。私が物音を立てると、彼は口に指を当てた。


静かにしろ?意味が分からなかったが、言われたままに音を立てないように、荷物をまとめ、玄関へ行き靴を履き、そっと屋敷から出た。


庭を横切り、通用門から外へ出て、集落の外れまで来て、そこに停めてあった車に乗った。彼はエンジンを掛けると、できるだけ音を立てないように、低速で車を出した。


しばらく進んでから、私は事情を聞いた。


「地下室で、福山さんの浴衣の帯を見つけた」


地下室と言っても一部屋ではなくて、かなり長い廊下でつながり、部屋がいくつもあったという。そして、倉庫として使われている部屋もあり、その中に麻薬が山積みになっていたと彼は言った。


その廊下の先は少し大きめの部屋になっていて、麻薬の精製工場だったと。


「多分、福山さんをそれを見てしまい、だから消されたのだと思う」


彼によると、地下通路は水崎さんの屋敷の下だけではなく、集落全体に広がっている規模で、麻薬精製は集落ぐるみでやっているのではないかと。


「でも、水崎さんは中国軍に抵抗しているし、もともと隊員だし」


私は信じられなかった。集落の人や、あの屋敷に出入りしている人に人望があるように見えたし、衛星制御装置の奪還作戦で一緒だったよしみもあって、麻薬ビジネスをやっているようには思えなかった。


私たちは、中国軍の検問に備えて本部との通信装置を持ってきていなかった。私たち二人で、韓国軍の援軍を止めらければならなくなった。そして、多分それは無理だ。全くお手上げだった。


東の空がほんのり明るくなり、朝日が見えてきた。

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