第71話 失踪

彼は明日の準備をしなければ、と言いながら立ち上がり、私たちは1階の客間に戻った。龍峰さんと福山さんは客間の縁側に腰掛け、庭を見ながら雑談していた。


水崎さんは彼らに、夕食と風呂の準備をさせることと、あすの準備があると言って、去っていった。


時刻は夕方6時近かった。しばらく客間で私はぼーっとしていた。すると、女性が襖を開けて、風呂の用意ができました、と伝えに来た。男湯、女湯と別れているという。


3人で風呂場へ向かい、風呂場の前で龍峰さんと別れ、私は福山さんと女湯へ入った。風呂場は温泉旅館の温泉ほどの大きさはなかったけれど、個人宅としては贅沢な広さだった。


私は普段風呂にゆっくり浸かる習慣がなく、ほとんどシャワーで済ませてしまっていたので、すぐにのぼせてきた。先に戻ってますと福山さんに言って、用意された浴衣を着て客間へ戻った。しばらくすると、龍峰さんが戻ってきた。


さっきの女性が夕食の用意ができたと伝えに来た。私と龍峰さんは彼女に案内されて、広間へ入り、用意されたお膳の前に座った。お膳は6人分あり、3人分毎に並んで向かい合った置いてあった。私たちは女性に案内されて、一方の3人分のお膳の前に座ったが、福山さんがまだ風呂から帰ってこないので、1人分空いていた。


しばらくして、水崎さんと他に二人の男の人が来た。水崎さんが二人を紹介した。ゲリラの幹部だと言い、現場の指揮担当と、情報収集担当だと名乗った。


福山さんはまだ帰ってこなかった。5人で先に食べ始めた。


「福山、ちょっと遅いですね、見てきます」と龍峰さんが立ち上がろうとすると、水崎さんがこちらで声をかけてきましょう、と手を叩いて女中を呼び、彼女にその旨伝えた。


彼女は部屋から出ていったが、しばらくして戻って来て、水崎さんの耳元で小声で囁いた。


「風呂にはいなかったようです。他のところも探してみたのですが、見当たらないということで」


彼は女中に、庭なども探してみなさいと言って、彼女は部屋から出ていった。


食後、客間に戻ると、布団が敷いてあった。隣の客間との間の襖が開かれて、一方の客間に2つ、もう一方の客間に1つの布団が敷いてあった。


一人部屋の布団の上に龍峰さんは座った。


「福山、どこへ行ったんだ?」


私は二人部屋の布団の上に座り、風呂場での福山さんを思い出した。別に態度に不自然なところはなかった。


特にすることもないし、今日一日中車に乗って疲れていたので、早く寝ることにした。龍峰さんにお休みなさいを言い、襖を閉め、布団に入った。私はすぐに眠りに落ちた。

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