第68話 ゲリラの屋敷
やっと横転が止まった。車は逆さまになっていた。私は体を支えながらシートベルトを外し、割れた窓から車外へ出た。
同時に、龍峰さんと福山さんも窓から這い出してきた。
私と龍峰さんは上を見上げた。かなりの距離を落ちたようで、山道は相当高いところにある。
上の山道にパトカーが止まり、警官が車から降りて、下を覗き込み、崖をおそるおそる降り始めた。
「行こう」
龍峰さんがそう私たちに声をかけた。
私達は山の茂みの中に潜り込み、獣道のような道なき道を進んだ。やがて、斜面が緩やかになり、そのうちほぼ平らになった。周囲の木々の背が低くなり、草原のようなところに出た。はるか向こうの方に、小さな建物が見えた。私達は30分くらいかけてその建物まで歩いた。周囲はきれいに整った畑で、その建物は農家の納屋だった。龍峰さんが扉を開けて中に入ると、農機具やら肥料やらが積んであり、おんぼろの軽トラックが1台あった。キーが刺さったままだった。私達はその軽トラックを借り、尾道へ向かった。
周囲はのどかな田園地帯で、とても今自治体連合軍と紛争をしている地帯には思えなかった。そういえば、菅浦集落の夏希の祖父母も、第2次世界大戦の時、終わるまで気付かなかったって、言ってたっけ。実際に戦闘が起きていないところは、そんな感じかもしれない。どっちが勝っても負けても、普通の人たちにとっては、税金の払い先が変わるだけで、日常の生活には影響ないだろう。ビジネスをしたり、役人になったりとか、そういうことをしなければ、特に私のように引きこもりや、バイト生活にとってはどっちでも変わらないのかもしれない。
3時間ほど山道の裏道を走ると、尾道市の標識が見えてきた。
地図で確認しながら、言われた住所に向かうと、比較的小さな山間の盆地があり、その山麓に数世帯の集落があった。周囲は一面畑で小さな川が一筋流れていた。盆地だから周囲は360°ぐるっと見渡す限り山に囲まれていた。
集落の中の道は狭そうだったので、外に車を止めて、私たちは歩いてゲリラのアジト?家?を探した。
集落の家には、ところどころ人が住んでいるようで、それぞれの庭で何か農作業のようなことをしていた。彼らは私たちを見かけても、特に怪しんだりはせず、のんびりとした雰囲気であった。
集落の一番奥の、山を背にした位置に、少し大きめの家があり、その周囲は庭を含めて塀で囲まれていた。こういう田舎では少し大きめの家という表現だけど、都会ならその敷地面積や家の大きさなどは、豪邸と表現されるものだった。
住所から、その家がゲリラのアジトのはずだ。
その塀はずっと続いていて、塀の内側は竹やぶっぽく、外からは丈が生い茂っている様子しか見えなかった。私達はその塀に沿ってしばらく歩き、塀の角を塀に従って直角に曲がり、更に進んだ。暫く進むと、塀の一角が内側に凹み、その奥に立派な門構えがあった。
龍峰さんが門の前に進み出て、紐を引っ張った。チリンチリンと鈴が鳴った。インターフォンでもなく、ベルでもなく、今どき鈴を設置するなんて、古風な家だな。
のぞき窓が開き、龍峰さんが自治体連合から来て、ここの長に会いたいと伝えた。
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