第66話 検問



姫路を出て、3時間くらいたって、津山市に入ったときだった。川にかかる橋を渡り終えた時、装甲車が橋を封鎖し検問をしていた。中国軍だった。私たちは予め偽の身分証と名前を用意され、簡単な口実も覚えていた。今日は家族で三原の親戚の家へ行く。そういう話だった。


私たちの前に、他の車があり、それらの車が少しばかりの列を作っていたので、形だけの検問だろう。その列に並んだ。


私たちの番が来た。中国兵が免許証の提示を求め、龍峰さんが免許証を出した。日本語を話せる中国人のようで、どこへ行くかと尋ねるので、三原へ親戚の家に行くと答えた。中国兵は私の顔をジロジロ見ていた。私は偵察衛星制御装置の奪還作戦の特急ひだで、中国兵の何人かと顔を合わせていた。でも、ここからは何kmも離れているし、日本に展開している中国兵も、多分たくさんいるだろう。彼が私の顔を知っているはずがない。


彼はエンジンを停めて、トランクを開けろと言うので、龍峰さんはトランクを開けた。トランクには武器は積んでおらず、通常の着替えなどの入った旅行かばんがあるだけだった。小銃が福山さんの席の前のダッシュボードに入っていた。ダッシュボードを見たいと言われたら、アウトだ。


彼はトランクを一通り調べて、怪しいものがないと分かると、トランクを閉めて、運転席横に戻ってきて、敬礼した。私たち3人はほっと安堵した。


龍峰さんはバシッと敬礼し返した。つい、安心したため、日頃の癖が出てしまった。中国兵が一瞬不審な顔をし、車から降りろ、と叫んだ。


龍峰さんは、急いでエンジンを掛けると、車を急発進させた。橋を封鎖している数台の装甲車の間を縫うように走り抜け、加速した。後ろで中国兵が大声で騒ぎ始め、数発銃を撃ったが、すでに届かない距離まで離れていた。2台のバイクが走って追いかけてきた。市内は信号が生きており、私たちの道の先の信号は赤だった。


「行くぞ」


龍峰さんはそう言って、クラクションを鳴らしながら、赤信号に突っ込んでいった。横から来る車が、急ブレーキを掛けて衝突直前で止まった。福山さんが地図を広げ、郊外への道を案内した。後ろから中国軍のバイクがサイレンを鳴らしながら追いかけてきた。


バイクは加速が良く、すぐに私たちの車の両横に着いた。バイクのライダーはカーキ色の軍服を着た中国兵だった。運転席側のバイクのライダーは片手でバイクのハンドルを握り、片手で腰の銃を抜き、こちらに向けた。


「龍峰さん、右後ろ」


彼はライダーに気づくと、ハンドルを急に右に切り、バイクに幅寄せし、ゴンッとバイクにぶつかった。ゴテゴテっとバイクは転倒し、すぐに後ろに流れ去っていった。でも、その同じタイミングで、左側のバイクが助手席めがけて数発発砲した。私と福山さんは座席の中で、身をすくめた。助手席と、後部座席の左側の窓ガラスが割れたが、私たちに怪我はなかった。


再びライダーが銃を向けた時、龍峰さんは車を急カーブさせ、大通りから側道に入った。バイクはそのまま真っすぐ行ってしまった。どうとかバイクは撒けたようだ。



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