第60話 感染症?
翌日、厨房で調理の手伝いをしていると、昨日の仙台市での暴動の話で持ちきりだった。警察と連携して暴動の鎮圧に成功したが、その原因が全く分からないらしい。暴徒には共通性が全く無く、横の連携は無かったという。
私は藤原さんの症状と関係があるとは思っていたが、それは口に出さなかった。より藤原さんを責める感じになってしまうと思えたから。
昼食時になり、隊員が食堂に集まってきた。私は出来るだけ厨房から食堂へ出て、隊員の食事中の会話に聞き耳を立てた。
“ウイルス“、”感染性“、”脳がダメージ“
そんな言葉が、時々聞こえた。ウイルスに感染して、脳がおかしくなった?
そういうことなのだろうか?
私は藤原さんと医務室で少し話したけど、少なくとも今のところは、発症していないし、多分、感染っていないのだろう。
だから、それほど感染力が強いウイルスなどでは無いような気がする。
それに、発症した人は、皆仙台中心部にいた人たちだ。だから、そこに何か原因がある気がする。
私は藤原さんの罪を軽くしたかった。乱射して多くの人を死なせてしまったけど、それが本人の意志でなく、何か別の原因であるならば、無罪にはならなくても、かなり他の人の藤原さんへの見方が変わるはずだ。
翌日、休みを取り、再度仙台中心部へ自転車で行った。
街中の大きな交差点には、警官や自衛隊員がいた。今は平静だから、特に何をするでもなく手持ち無沙汰そうに、周囲を見渡していた。
私が自転車で近くを通り過ぎようとすると、身分証の提示を求められた。そんなもの持っていなかったので、多賀城駐屯地の入門証を見せたら、通してくれた。
繁華街は、先日来た時よりも、かなり人通りが減り、昼間なのに、ほとんど人が歩いていなかった。
店もほとんど開いていなかった。
少し行くと、コンビニがかろうじて開いていたので、中に入った。のどが渇いていたので、残り少ない商品の一つを選び、先日の暴動、もとい集団発狂について聞いてみた。
店員は、原因などは何も知らなそうだった。
店を出て、空いている店を探したが、ほとんど無く、全く収穫がなかった。
遠くに交番が見えた。
交番前には、パトカーが数台停まっていて、数人の警官がいた。多分、交番が市内の警戒のちょっとした拠点になっているのだろう。
交番の中に、警官が一人座っていたので、声をかけ、集団発狂の原因などについて聞いた。
「こちらも、何も分かっていないです」
そう彼は言った。
「安全のため、用が済んだら、できるだけこの辺りは出歩かないほうが良いですよ」
私は礼を言い、もう少しだけ、手がかりを探してみることにした。
藤原さんと来たカフェがあった。
一度入ったことがあるから、一人だけど、全く知らない店よりは入りやすかったので、勇気を出して入った。店の人に、集団発狂について聞くと、同じく何も知らないと答えた。
「せっかくだから、何かお飲みになりませんか?今日、全然お客さんが来なくて」
改めて店内を見渡してみると、先日はそれなりに賑わっていた店内は、がらんとほとんど人がおらず、部屋の端のテーブルに、ぽつんと一人座っているだけだった。
私は、近くテーブルに着き、飲み物を注文した。
これだけ人がいないと、一人でカフェに入っても、周囲の視線が気にならないので、私にとっては快適だった。
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