第59話 仙台騒乱

炊事仕事が終わり、自分の宿舎に戻っても、藤原さんのことが頭を離れなかった。


翌日、なんとなく一昨日の藤原さんの行動を同じ厨房の人に聞いてみたら、仙台の中心部に遊びに行っていたようだと聞いた。


その時に、何かあったのかもしれない。自分が行ったところで、原因が分かるわけでもないし、藤原さんの記憶が戻るわけでもないけれど、無性に行きたくなった。


シフトをずらしてもらい、午後、自転車で仙台中心部へ向かった。


適当に自転車を停めて、藤原さんと歩いたコースを再びたどった。一緒に入ったカフェがあった。一人で入る勇気はなかったので、素通りした。


一昨日、藤原さんはどこへ行ったのだろう?


ただ、どこへ行っても、表から見る限りは、特に変わりのない普通の繁華街だった。


大通り沿いを歩いていると、向こうの方から車が走ってきたが、急カーブし、ビルの1階の商店のウインドーガラスを突き破り、店の中に半分突っ込んだ。


歩行者数人が悲鳴を上げた。


車はバックし、大破したまま、今度は大通りの反対側の店に突っ込んだ。漏れたガソリンに引火し、車が火を吹いた。


付近の人は、呆然と立ち尽くしていた。


すると、大通りに交差する、ある筋から数人の人が走ってきた。何かから逃げているようだった。彼らの後ろをみると、包丁を振り回しながら、中年の男が、彼らを追いかけてきた。


私は急いで自転車のところまで行き、乗ると、大急ぎでその場を離れた。


少し走り、野球場あたりに着いた時に、後ろを振り返ると、複数の煙が上がっていた。


そして、かなりの数の人が、走ってこちらに逃げてきてた。追いかけてくる人はさっきの中年の男ではなく、今度は女性だった。彼女も刃物を振り回していた。


車の衝突事故、刃物を振り回す男女、そのような人が、私が見た限りでも3人いたが、煙の数から、似たような人がもっといるのだろうと思えた。


今度は、左手の方で、大きな爆発音と炎が吹き上がり、その後もくもくと黒煙が上がりだした。


私は急いで、駐屯地まで自転車で走った。


駐屯地につくと、続々と装甲車が仙台中心街に向かって、列をなして出ていっていた。食堂の厨房へ行き、何があったのか事情を聞いた。


仙台の中心街で暴動が発生し、警察だけで手に負えないので、自衛隊に出動要請が来たらしい。


でも、私は思った。あれは暴動じゃない。


多分、藤原さんと同じ症状だ。


外を見ると、仙台市の方角から、黒煙が上がっていた。まるで戦場みたいだった。


そういえば、日本は今は戦争しているんじゃなかったけ?東京の政府は降伏したから、してないのかな?分からない。


大体なんで、戦闘もせずに、降伏したのだろう?


自分の今の状況はよく分からなかったけど、まだまだ平和な世の中になっていないことは確かだ。

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